ゆば

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[エッセイ 474]
ゆば

 関西地方に住む親戚の方から、生のゆばを送っていただいた。製造元は京都の有名な老舗だった。ゆばについては、それなりの知識は持っているつもりだった。しかし、よく考えてみると、普段まったくお目に掛かったことのない食品である。とくに、生というのは初めてである。どのようにいただけば、その方のご厚意に応えることができるだろう。ただ、生なので賞味期限が限られており、日にちをかけていろいろ試して見るだけの時間的な余裕はなかった。

 その方のお話では、生のまま刺身のようにしていただくのが一番だとのこと。その日から“生ゆばづくし”の生活が始まった。まずは刺身。最初は普通の刺身のようにワサビと醤油で、つづいてショウガと醤油で試してみた。さらには、ポン酢でもいただいてみた。癖のない、それでいてしっかりとした個性の確立された食品である。どのような食べ方をしてみても、その素材の味が引き立てられることはあっても、味の根本が揺らぐようなことはなかった。

 今度は、生野菜と生ゆばで単純なサラダを作ってみた。その一方、レタスとハムをゆばで巻き、巻き巻きサラダにもしてみた。味付けは、いずれも青じそドレッシングで試みた。三つ目は、鯛の薄造りとのコンビネーションによるカルパッチョに挑戦した。味付けはオリーブオイルとバルサミコ酢、それに黒こしょうで試してみた。どうやら、わが家には欧風のサラダがお似合いのようだった。

 ところで、ゆばとは豆乳の表面にできる薄い膜のことである。大豆で作った豆乳を、ゆっくり加熱すると表面に薄い膜ができる。それを竹串などで引き上げて食品として加工したものである。植物性蛋白質に富み、主に精進料理の材料として利用される。一説によると、約1200年前に、最澄が仏教やお茶とともに中国から持ち帰ったという。ゆばは「うば」が訛ったものといわれている。表面の黄色くしわのある様が姥の面の皮に似ていることからそう呼ばれたらしい。

 日本の生産地は精進料理と関係の深い京都や日光が有名である。ゆばを漢字で書くとき、京都では「湯葉」と書くが日光では「湯波」と書くことが多い。加熱した豆乳からゆばを引き上げるとき、京都ではその端から竹串で引き上げるが、日光では中央から引き上げる。引き上げられた膜は、京都は一枚、日光は二枚重ねになる。当然料理方法と食べ方にも違いが出てくる。京都は生または自然乾燥させて調理する。日光は生または油で揚げることが多いという。

 こうして、生ゆば三昧の贅沢な生活は、その賞味期限である3日間続いた。しかし、二人だけの老老家庭では、山盛りにいただいた生ゆばを食べ尽くすことはできなかった。残ったゆば冷凍庫に大切に保管させてもらった。これからは、送り主に感謝しながらじっくりと時間をかけて賞味させていただく所存である。
(2017年11月14日)