ダイコン

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[エッセイ 585]

ダイコン

 

 先週末の2日間、わが家の買い物ゲームは久し振りに活況を呈した。なんと、近在の3つのスーパーが、そろってアジを特売の目玉として取り上げていたのだ。早速、その夜のメインディッシュは尾頭付きアジの塩焼きとなった。この日一緒に買ってきた新鮮なダイコンが、みずみずしいおろし大根となって焼き魚の引き立て役を務めたことはいうまでもない。

 

 そういえば、市場ではダイコンが余って大量に廃棄されていると聞く。三浦半島のその農家でも、肩を落としながらそれの処分にあたっていた。コロナ禍で外食が落ち込み、業務用が減った結果だそうだ。一般家庭の料理の洋風化も、ダイコンの出番をさらに狭めているのかもしれない。かつては200万トンあったとされる全国生産量は、130万トンあたりまで落ち込んでいるようだ。

 

 ダイコンの原産地は地中海から中央アジアあたりだそうだ。日本には、すでに弥生時代には入っていたようだが、一般に食べられるようになったのは江戸時代あたりかららしい。勝手な想像だが、江戸時代初期にかけて活躍した沢庵和尚のタクアン漬けが、ダイコン普及のきっかけになったのかもしれない。

 

 そして、日本は急速にダイコンの名産地になっていったと思われる。あの白くて太い、人の足にすら例えられる日本のそれは、広い裾野の上に世界最高ランクにあるのではなかろうか。なにしろ、世界で一番大きくて重いのは桜島大根であり、一番長いのは守口大根だそうだ。英語では、ダイコンのことを普通radishというが、ちゃんといおうとすればJapanese radishとなるそうだ。

 

 ダイコンは、マーケットには一年中あるように見受けられるが、本来のシーズンは年3回だそうだ。2月下旬に蒔き、4月下旬~5月中旬ごろ収穫するもの、4月中旬に蒔いて5月下旬~6月下旬ごろ収穫するもの、そしてもう一回は9月上旬に蒔いて11月上旬~翌2月下旬に収穫するものである。最後の、冬場に収穫するのが全体の7割を占めているという。

 

 ダイコンの食べ方は、生と煮物が中心であるが、漬け物も大きなウェイトを占めている。生では、おろし、サラダ、刺身のつま、酢の物、浅漬けなど。煮物としては、おでん、ぶり大根、ふろふき大根、吸い物の実、味噌汁の具などがある。漬け物としては、たくあん、べったら漬け、福神漬け、いぶりがっこなどが上げられる。他に、切り干し大根や葉っぱのおひたしなどもよく食べられている。

 

 ダイコンと聞くと、大根役者や大根バッターという言葉が浮かんでくる。殺菌効果が強く、たくさん食べても食あたりしないことから「当たらない」が引用されたようだ。それにしても、あの太い根っこはどんな必然性があってあんなに大きく成長するのだろう。いまだ、納得のいく答えを導き出せていない。

                       (2021年3月3日 藤原吉弘)