ツツガムシ病


[エッセイ 682]

ツツガムシ病

 

 知り合いに、ツツガムシ病にかかった人がいた。大変な思いをしたそうだが、「ツツガムシ病というと、あの“つつがなく・・”のあれだよねえ」とはいったがその後は続かなかった。この病は、ツツガムシに噛まれて発症する病で、信濃川流域とそれから北、秋田県あたりまでの風土病という話は聞いたことがある。そして、「つつがなく・・」という言葉は、ツツガムシの被害にも遭わないで旅を終えられたとか、平穏無事に過ごしているという意味合いだと記憶している。

 

 そのツツガムシ病だが、ダニの一種であるツツガムシに噛まれることによって、ダニのもつオリエンティア・ツツガムシという細菌に感染して発症するのだそうだ。正式名称は「重症熱性血小板減少症候群」という。発症率は3~60%、全国で一年に500人前後が罹っているようだ。適切に治療すれば3日以内には解熱するという。ただし、予防のためのワクチンはないそうだ。

 

 ツツガムシ病が発症に至る経過はだいたい次のようだ。ツツガムシが人間の衣類の隙間から入り込み、内股、脇など皮膚の柔らかい部位を刺す。刺された箇所は赤く腫れ、その周りが小さな水ぶくれになり、10日目頃には黒いかさぶたとなる。この頃から全身のだるさ、頭痛、食欲不振、発熱など風邪に似た症状が現われ、39度から40度の高熱が続く。同時に、胸、腹、背中などに赤い発疹が現われる。治療が遅れるとなかなか治らず、肺炎のような症状が現われ、咳が出たり、肝臓や膵臓が腫れるなど全身に症状が出る。人から人へはうつらない。

 

 そのツツガムシ病の原因となるツツガムシだが、ダニの一種で大きさは0.3~0.5mmくらい。日本には約100種がいる。草むらや草木のよく繁った所に生息している。このダニのうち0.1~3%が原因となる菌を持つ。ツツガムシは、卵から孵化した後、一世代に一度だけ幼虫期に哺乳類に吸着して組織液を吸う。

 

 人は有毒ダニに吸着されると感染することがある。吸着時間は1~2日で、ダニからの菌の移行には6時間以上がかかる。予防には、肌を出さない、衣服を草むらにおいたり、座ったり寝転んだりしないこと。人用予防虫スプレーも効果的である。たとえ有毒ダニに吸着されても、すぐに感染するわけではないので、帰宅後体をよく洗い、衣類はすぐ洗濯しておくといい。もし不幸にして発症したら、医師に当時の状況を詳しく話すことが大切である。

 

 かつては、山形県秋田県新潟県などで夏期に河川敷で感染する風土病だった。戦後新型ツツガムシ病の出現により北海道と沖縄など一部を除いて全国で発生するようになった。あらためてよく調べてみたら、「つつが(恙)」はもともと病のこと、「つつがなし」も虫とは関係のないことだった。それでも、これから先も、ツツガムシ病もその他の恙もないに越したことはない。

                      (2024年4月28日 藤原吉弘)