アジ三昧

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[エッセイ 562]

アジ三昧

 

 新聞にどっさりと折り込まれてくるチラシ類を、かつては邪魔物とさえ思っていた。ところが、緊急事態宣言でそれがなくなってみると、買い物情報が極単に少なくなったことに気がついた。以前なら、それらを見比べながら、「今日はA店で肉と野菜を見てみよう、明日はB店で魚を選ぶことにしよう」といっていたのが、まったくできなくなってしまった。

 

 緊急事態宣言が解除され、その不便さから解放されて久しい。わが家では、さっそく以前の行動パターンに戻した。買い物の目玉となる対象は都度変るが、一貫してその中心にあるのがアジである。「先週YM店で買ったアジは大きくて活きもよかった」「今週は、Fスーパーが一匹100円で売り出しているようだ」「そういえば、来週、Tストアは98円にするそうだ」等々。

 

 たった二人だけの家族だが、一回6匹ほど買う。2匹はフライ用に三枚おろしに、あとの4匹は腹だけ出してもらって焼き魚と煮魚に当てる。フライ用と煮魚用の4匹は、冷凍しておき後日調理する。フライや煮物にする場合は、この保存方法でもあまり味は落ちないためだ。なお、鮮度抜群の場合は8匹買い、4匹を三枚おろしにしてもらって、その内の2匹をタタキで当日のお昼にいただく。

 

 従来は、いまの3店の他に、SMスーパーにもよく出かけていた。同じようにアジを目玉として扱っていたためだ。この店では、腹を出してもらうとき、頭は残しておいてくれというと不思議がられた。「頭は食べないけど、尾頭付きでこそ価値があるよ」とよく言い返したものだ。しかし、最近、この店はアジの売り出しをしなくなり、こちらも寄りつかなくなってしまった。

 

 売り出しのチラシを見ると、たいていが「長崎産または山陰産」と添え書きされている。アジは玄海灘から山陰沖の日本海でよく捕れるらしい。地元・相模湾産や千葉沖の太平洋産もみかけるが、目玉として登場するのはもっぱら日本海側で捕れたもののようだ。逸品として有名な豊後水道産の関アジは、名前はよく耳にするが、さすがにスーパーの売り場で目にしたことはない。

 

 このアジは、鮮度も要求されることから、売り出し広告には「天候によっては入荷しないこともあります」などと添え書きされている。事実、そのつもりで出かけたのに、「ご期待に添えず申し訳ありません」という表示に出会ったことも一度や二度ではなかった。それにしても、このところの九州での集中豪雨では、ほとんど影響を受けていないようにみうけられるのがうれしい。

 

 アジは庶民向けを代表する魚である。栄養豊かで青魚の割に癖も少なく汎用性に富んだ食材である。もちろん、供給も価額も安定している。これからも、買い物ゲームの目玉として愛し続けていきたいと思っている。

                      (2020年7月26日 藤原吉弘)