カラスとの闘い

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[エッセイ 327]
カラスとの闘い

 高校同窓生のゴルフコンペ・嵩山会は、赤羽ゴルフ場をホームコースにしている。荒川の河川敷を利用したコースだが、クラブハウスはもちろん土手の外にある。そのクラブハウスが、来年春までの予定で建て替えられている。

 客へのサービスは仮設の建物で対応しているが、食堂と浴室まではついていない。そのため、通常ならハーフラウンドが終わると、食事のために一旦クラブハウスに引き上げるところを、18ホール通しでラウンドさせている。河川敷のためか途中に売店はない。客はラウンド終了の2時、3時まで空腹を抱えることになる。そこで、事情を知ったプレーヤーはみな軽食を持参する。

 この日、私もおにぎりを2個とスポーツ飲料2本をコンビニで買い揃えておいた。私たちはキャディーなしのセルフでプレーしているので、それらのものはカートに取り付けられたカゴに入れて持ち歩く。このゴルフ場にはカラスが多く、それらの食べ物をカゴに入れたままカートから離れるとすぐ彼らに狙われる。事実、過去に何度もそのような光景を目撃してきた。

 私は、中身の見えない濃緑色のプラスチック袋を用意し、その中に食べ物を隠しておいた。さらに、着ていたジャンパーとベストも脱いで、それでプラスチックの袋を覆った。ポカポカと温かく、遠くに見える煙は垂直に立ち登っている。6番ホールまで3オーバーと、私にしては上出来の滑り出しだった。

 7番のティーグランドは、6番グリーンから50メートルばかり斜め後ろに戻ったところにあった。カートはコースの脇に置いておくことになる。「ここはよくカラスに狙われるので気をつけなければね!」といいながらティーグランドに向かった。4人全員がティーショットを終え、カートの方に向き直ったら、案の定カラスがカゴの中をあさっていた。

 すでに手遅れだった。ジャンパーもベストも剥がされ、濃緑色のプラスチック袋は引きちぎられていた。袋の中はとっくに空っぽになっていた。数メートル先の木の下で、一羽のカラスがおにぎりの最後の包装を破るところだった。あとのもう一個は、別の一羽がくわえて飛び去るところだった。

 手の打ちようがないというのはこういうことだろうか。「クソッ!」とカラスに向かって大声で叫ぶのがやっとだった。こんなことになるくらいなら早く食べておけばよかった。急に空腹を覚え、めまいさえしそうだ。あきらめきれないがあきらめるしかなかった。さいわい、前の組の一人が、持っていた2本のバナナのうちの1本を分けてくれた。

 カラスとの闘いは完敗だった。一矢報いてやりたいが、弓矢はもとより石ころの一つも投げつけることができない。専守防衛のいかに難しいことか。
(2011年11月15日)