トマト

イメージ 1

[エッセイ 338]
トマト

 わが家の朝食には、ヨーグルトのほかに果物が一品付けられる。初冬から春半ばにかけてはリンゴが、それから先、晩秋まではトマトがその役割を担う。もっとも、トマトは果物ではなく野菜の部類に入るようだが・・。

 いつものことだが、なにかの食品が健康にいいと報道されると、翌日からそれが爆発的に売れ出す。近いところでは、バナナダイエットが大ブームを巻き起こした。今回はトマトがその主役に躍り出ようとしている。なんでも、トマトには脂肪の代謝を促す効果があり、メタボ対策に有効なのだそうだ。

 京都大学大学院の河田照雄教授らの研究グループが、トマトに血液中の脂肪増加を抑える新成分が含まれていることを発見した。マウスを使った実験でそのことを確認したという。同教授は「人間の場合、毎食コップ1杯のトマトジュースを飲むことで同様の効果が得られる」と話している。

 トマトは、アンデス山脈の高原地帯が原産の、ナス科ナス属の野菜である。果実は緑黄野菜の一種で、苗を植えてから2~3カ月で収穫できる。連作は好ましくない。乾燥には相当強い。生育の適温は、昼が20~25℃、夜は10~20℃。そんなことから、トマトの旬は真夏ではなく、春から初夏、あるいは秋から初冬だという。

 トマトは、1519年に初めてメキシコからヨーロッパに持ち込まれた。当初は有毒植物だと思われ、もっぱら観賞用に供されていた。それが食用にできると分かり、以降200年間にもわたって主にイタリアで品種改良が進められた。日本には1660年代に入ってきた。それが食用にむけられたのは明治以降、本格的に食べられはじめたのは昭和になってからだそうだ。

 トマト料理は、品種改良とともにイタリアを中心に発展してきた。その一方、トマトはアメリカでも古くから愛されており、果物か野菜かという大論争まであった。輸入の果物には関税はかからないが、野菜にはかけられたためだ。論争が始まって100年後の1893年、米最高裁はついに「野菜」と判決した。その理由は、トマトが野菜畑でつくられていること、そしてメインディッシュに組み込まれ、デザートとしては供されていないためだそうだ。

 日本でも、「最も好きな野菜」の調査で、トマトが3年連続でトップだった。それを裏付けるように、一般家庭における野菜の年間購入量(重量)ランクは、上からダイコン、ジャガイモ、キャベツ、タマネギ、そして5番目がトマトだった。ヨーロッパには、「トマトが赤くなると、医者が青くなる」という諺まである。今回のニュースは、それに拍車をかけることになるかもしれない。

 トマト好きのわが家にとって、ブームの盛り上がりは大変な迷惑である。
(2012年3月4日)