ドジョウ

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[エッセイ 320]
ドジョウ

 いま、話題の中心になっている生き物といえばドジョウである。長崎県には、そのドジョウを題材にした民話があるそうだ。

 ・・むかしむかし、ある一人の親孝行な男がいた。そのお母さんが、豆腐が食べたいというので買いに出かけた。豆腐屋の帰り道、ドジョウをつかまえた若者たちに出くわした。彼らは、ドジョウ汁を作る支度をしているところだった。鍋には生きたドジョウがたくさん泳いでいた。

 彼は、若者たちに豆腐も一緒に煮てくれないかと頼んだ。若者たちは、一丁だけならついでに煮てやるよと、その豆腐を鍋に入れさせてくれた。火にかけられた鍋の水はだんだん熱くなっていった。ドジョウたちはたまらず、まだ冷たさの残っている豆腐の中に潜り込んだ。

 彼は、急用を思い出したと、脇でおしゃべりに余念のない連中に声をかけ、豆腐を持って帰っていった。もうぼつぼつ食べごろだろうと、若者たちが鍋を覗いてみると、豆腐のかけらがあるだけでドジョウの姿は全く見えなかった。そのときになって、若者たちは男にしてやられたことに気がついた。・・

 なんだ、「地獄鍋」を題材にしたたわいない作り話ではないか。そう、ドジョウの料理にはこんな残酷な調理方法もあるのだ。ドジョウは、柳川鍋あるいはどじょう鍋で食べるのが一般的である。柳川鍋はネギやゴボウとともに割下(だし汁+調味料)で煮て卵とじにしたもの。卵でとじないのがどじょう鍋である。ドジョウは、唐揚げや蒲焼でもおいしくいただくことができる。

 どじょう料理屋というと「どぜう」の看板を連想する。1801年創業の駒形どぜう店ではそのことを次のように説明している。・・どぜうは初代越後屋助七の発案。1806年(文化3年)江戸の大火の後、どじょうの四文字は縁起が悪いと三文字のどぜうに変えた。その後、他の店も追随するようになった。・・

 ドジョウは、コイ目ドジョウ科の淡水魚で、中国、台湾、朝鮮、そして日本が主な生息地である。水田や湿地など泥の多い止水の底を好む。全長10~15cm、円筒形で細長い。口のまわりには10本の口髭を備え、主に餌を探すときに使う。餌は、ワムシ、アカムシ、ミジンコなど雑食性である。

 えら呼吸主体だが、水中の酸素が不足すると、口で空気を吸いこみ腸で呼吸して肛門から排出する。彼らは皮膚呼吸もできることから空気中でも数時間は生きられるという。ドジョウは、寒い時期泥の中に潜って冬眠し、暖かい季節に活動する。神経質で環境の変化に敏感だそうだ。

 新首相はドジョウをもって自認しているようだが、地獄鍋のような党内抗争にだけは首を突っ込まないでほしいものだ。
(2011年9月5日)