かおりの金木犀

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[風を感じ、ときを想う日記](390)10/7
かおりの金木犀

 近所を散策していると、どこからともなくかすかなかおりが漂ってくる。立ち止まってあたりを見回すと、繁みの陰に橙色の小さな花の塊が見え隠れする。アッ、こんなところにもあったのか!

 トイレの芳香剤と違い、天然のかおりは柔らかである。中国では、七里香や九里香などと呼ばれることもあるそうだが、そのほのかなかおりは少し離れたところのほうが鼻孔に心地よい。

 金木犀は、普段庭の隅にひっそりとたたずみ、この季節だけ通りがかりの人を立ち止まらせる。突然通行人をびっくりさせるその様は、目の前にパッ現れる春の桜と似通っている。

 桜は見た目で驚かせ、金木犀はかおりで私たちを振り向かせる。華やかさが売り物の桜とは対照的に、金木犀はその立ち姿も花すらもいたって地味である。花言葉で“謙虚”といわれるのも、けだし納得のいくところである。

 ヒガンバナの妖しげな姿と入れ替わるように現れたかおりの女王は、ほんの数日間だけ自分たちの存在を控え目にアピールする。その可愛い花は、数日を経ずしてぱらぱらと足元に振り落とされる。

 彼女たちの敷き詰めた金色のじゅうたんは、秋雨とともにやがて静かに土に帰っていく。