控え目な花

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[風を感じ、ときを想う日記](536)10/15
控え目な花

 通り過ぎようとしてふと立ち止まる。振りかえり、その出どころを確認すると、安心してまた歩き出す。鼻孔をくすぐるキンモクセイのあの甘いかおりに、昨日あたりから散策中に出会えるようになった。

 夏の間、百日にもわたって、紅を絶やすまいとがんばり通してきたサルスベリにも、さすがに疲れが見えてきた。冬を彩るサザンカにバトンタッチするには間が空きすぎる。そこに静かに登場したのがキンモクセイである。

 植物が、気温の差と変化に律儀だということは分かっていたが、こうまではっきりしているとは思わなかった。実は、先週の日曜日、箱根湯本のゴルフ場に出かけた。箱根といっても裾野の、海抜300メートルばかりの低いところにある。そこでは、キンモクセイがすでに盛りを過ぎようとしていた。

 あれから一週間、昨日の日曜日あたりからわが家の周辺でもあの柔らかいかおりが漂うようになった。中国では、七里香や九里香などと呼ぶこともあるそうだが、そのほのかなかおりは少し離れたところのほうが鼻孔に心地よい。

 木の大きさや姿の良さで虚勢を張るわけではない。葉っぱの色や形で目立とうとするわけでもない。ただ、ある日突然、葉っぱの陰に小さな花をつけ、さわやかなかおりで人々を元気づけようとする。キンモクセイは、花言葉の「謙遜」にふさわしいなんとも控え目な存在ではあるまいか。