尾骶骨痛

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[エッセイ 294]
尾骶骨痛

 朝目覚めて、布団の上に起きあがろうとすると、お尻が痛くてうまく腰を下ろすことができない。正座ならなんでもないが、足を投げ出して“く”の字になったり、あぐらをかいたりすることができないのだ。手で押したくらいではなんでもないが、尾骶骨(びていこつ)のあたりに体重をかけると強い痛みが走る。その辺りの骨に、なにか異常をきたしたのだろうか。

 国民医学大事典という本を引っ張り出して調べてみた。しかし、2千ページにも及ぶ分厚い本なのに、それらしい記述はどこにも見当たらない。用語の索引を見たが、そこにも尾骶骨という字句は見当たらなかった。そんなことは聞いたこともないし、もちろん経験したこともない。お医者さんに行くにしても、どんなところに行けばいいのかそれさえ見当がつかなかった。

 よくよく考えた挙句、整形外科がいちばん近いのではなかろうかとの思いに至った。駅前には、腰痛や腱鞘炎で何度もお世話になった馴染みのクリニックがある。とにかく、そちらの整形外科で相談してみることにした。

 「最近、車に長時間乗ったり、固い椅子を使い続けたりしたことはありませんか?」。診察の結果は、尾骶骨が炎症を起こしているということだった。その骨に長時間負担をかけ続けると、そんな症状が出ることがあるという。専門用語で尾呂痛(びろつう)というそうだ。高齢になって腰を支える筋肉が衰え、尾骶骨への負担が大きくなった結果だという。メタボ退治の副作用で、お尻の脂肪が痩せてしまったのも要因の一つになっているかもしれない。

 そういえば、その前日は敬老の日だった。近くの老人センターで記念行事があるというので出かけていった。メイン会場は舞台つきの広いお座敷になっている。市長のあいさつや歌謡ショーなどの余興はそこで行われた。私はそこに座椅子を置き、足を投げ出した格好で座っていた。座布団は使ってはいたが、余り上等でないその上で、尾骶骨を押しつけたまま半日を過ごしたのだ。

 骨に異常はないが、その部分が炎症を起こしているので痛み止めの薬をもらうことにした。とにかく、その部分に負担をかけないよう、ドーナツ枕かバスタオルを丸く巻いて椅子に置くようにとの指導を受けた。

 自宅に帰って、「尾呂痛」をキーワードにインターネットで検索してみたら2本しか出てこなかった。尾呂痛というのは一般にはなじみのない用語のようだ。念のためにと、「尾骶(てい)骨痛」で検索したらこちらは1万8千本も出てきた。結局、私が知らないだけでそれほど珍しい病気ではなかったようだ。

 あれから3週間にもなるのに、いまだきちんと座ることができない。処方された飲み薬が切れた後は、気休めの消炎塗り薬でなんとかしのいでいる。いずれにしても、息の長いお付き合いを強いられることになりそうだ。
(2010年10月10日)