謙虚と香りの木

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[風を感じ、ときを想う日記](600)10/7
謙虚と香りの木

 雨戸をあけると、あのなんともいえないふくよかな香りが飛び込んできた。アッ、もうこんな季節になったのだ。そういえば、昨日近所を歩いていたら、行く先々であの優しい香りに接することができた。キンモクセイは、鼻孔に訴えて、時の移ろいを私たちに実感させてくれる。

 ヒガンバナが終わってみると、コスモスの他にとりたてて人目を引くような花は見当たらない。わずかに、ムクゲの生き残りと新参のエンゼルトランペットが頑張っているくらいだ。そんなとき、香りで勝負に出たのがこの花である。しかし、しょせんは雄だけの世界、どこか寂しげでその花の命も短い。

 キンモクセイの故郷は中国の桂林だそうだ。中国名は丹桂という。丹は橙色、桂は木犀を意味する。桂林とは、まさに木犀の林である。彼らは江戸時代に日本にやってきた。しかし、どういうわけか雄株だけだった。そのため、花は咲いても実をつけることはない。子孫を残すことのできない寂しい花である。

 樹形は平凡な中背、木肌は犀の皮に似て硬くザラザラ、葉はつやはあるがとりたてて美しいわけではない。花は米粒ほどの小さなもの。香り以外特筆すべきものはなにも見当たらない。そのせいだろうか、キンモクセイ花言葉は控え目なものばかりである。

 謙遜、真実、陶酔、初恋、高潔な人、慎み深さ、変らぬ魅力、そして思い出の輝き。まさに謙虚と香りだけが売り物である。

 キンモクセイについては、過去に3回、視点を変えながら書いています。このまま遡ってぜひご参照ください。
【エッセイ、風を感じ、ときを想う日記】
・エッセイ-147「キンモクセイ」’06,12,5付
・日記-121「金木犀」’07,10,11付
・日記-390「かおりの金木犀」’10,10,7付
旅行記
・エッセイ-40「桂林」’03,12,5付