キンモクセイの季節

イメージ 1

[風を感じ、ときを想う日記](716)9/26
キンモクセイの季節

 はっ、と思って足を止め、鼻をぴくぴくさせながらあたりを見回す。その存在が確認できると、安心してまた歩き出す。ここ数日の、私のご近所での挙動である。“挙動”というと、すぐ“不審”と続けたくなるが、そんな怪しげなものではもちろんない。キンモクセイの、あのふくよかな香りにつられて、ついおかしな行動をしてしまっただけのことである。

 キンモクセイは、その強い香りで人の行動さえ左右しかねないほどの影響力を発揮する。花なのに、その姿はほとんど見向きもされない。虫たちもあまり寄ってはこない。キンモクセイは、香りだけが頼りの花である。

 このあたりは戸建ての住宅街なので、たいていの家には庭があり木が植えられている。そしてその木の中には申し合わせたようにキンモクセイが一本含まれている。シーズンになると、トイレの芳香剤を一斉にばらまいたような雰囲気にさえなる。

 花は直径1センチ余りの濃いオレンジ色、肉厚の小さな花弁が4枚付いている。その花たちが寄り集まって房になる。房の半分近くは、つややかな葉っぱの陰に隠れている。一斉に開いて、数日でほぼ同時に散る。饗宴が終わると、木の下はオレンジ色のじゅうたんで覆われる。

 こうして、金木犀の季節はあっという間に通り過ぎていく。