そば打ち体験

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[エッセイ 55](既発表 5年前の作品)
そば打ち体験

 先日、語学教室の仲間に誘われて、3人でそば打ち体験教室に参加した。今回挑戦したのは、一番おいしいとされる二八そばである。二八とは、そば粉8割に対しつなぎの小麦粉が2割という意味である。調理台には、あらかじめ8対2に混ぜ合わされた粉300グラムと、それの4割に相当するという水120CCが用意されていた。これで3人前のそばができるそうだ。

 われわれの挑戦は、それを練り合わせてそばの生地をつくることから始まった。私たちは、鉢の中に盛られた粉に、少しずつ水を加えながら混ぜていった。粉全体に、まんべんなく水分を行き渡らせることが大切です。

 水は、まず半分入れて次にその半分、さらにその半分というふうに段階を追って少しずつ入れてください。手早くしないと水分が蒸発してしまいます。などと、いろいろな注意を受けながら、鉢の中の粉は大きな団子に変身していった。私は、3回目の水を注ぐ時、残りを全部入れてしまったがなんとか取り繕うことができた。

 団子から、気泡や継ぎ目がなくなるよう十分に練り合わせたところで生地をのし台に移した。あとは、デモンストレーションでよく見かけるあの工程である。麺棒で延ばし、何重にも折りたたんで麺の大きさに切りそろえる。

 私は生地を延ばすとき中心部分を破ってしまったが、なんとかリカバリーし、逆に切り方がうまいと誉められて鼻を高くしていた。持ち帰った麺を家内に見せながら、釣りでたくさんの鯵を持ち帰ったときのあの得意な表情を思い出していた。

 夕食は、ざるそばにてんぷらと決まった。体験教室の最後に出された先生達の打ったざるそばのうまさを思い起こしながら、ビール片手にそばの茹で上がりを待った。ざるに盛られたそばの長さはまちまちであったが、長くても5センチ程度しかなかった。

 そばはなぜ長くなければいけないのか、つゆにつけてみてすぐ理解できた。つゆがうまくつかない。第一、あのスースー、つるつるという食べ方ができないではないか。家内はおいしいといってくれたが、そばは長くてはじめてそばである。なぜ、マカロニが短くスパゲティーが長いのか。それぞれに食文化の奥深い裏付けがあってのことである。

 私は、学生のころお金も食べるものも無くなると、非常用にとってあった小麦粉でうどんを作って代用食にした。小麦粉を水で練り、ビール瓶で延ばせば簡単にうどんができた。そのイメージが、そば道場の存在を理解する上で大きな妨げになった。

 そばがきれぎれになったのは、練り上げた生地を平に延ばすとき破けてしまったためなのか、最初の段階で水をどばっと入れてしまったのが間違いのもとだったのか。実は、そんな簡単な反省で、うまくいくほど甘くないということだけはわかってきた。
(2004年4月16日)