そうめん

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[エッセイ 597]

そうめん

 

 今日のお昼にはそうめんをいただいた。栄養バランスを考え、添え物は卵焼きとキュウリのほか、ちくわと魚肉ソーセージも用意してもらった。それにしても、暑いときは冷たい麺類に限る。よく冷やした麵を、薄味のつゆに浸してつるつると飲み込む。あの舌触り、あの喉越しの感触はまた格別である。

 

 子供の頃、麵といえばうどんかそうめんだった。そばは年末の大晦日に年越しそばとしていただくくらい、うどんは食糧不足の代用食でしかなかった。それにひきかえ、そうめんは粗食のはずなのに大変なご馳走だった。干し椎茸の香りとキュウリの歯ごたえが、子供の感性をもしっかりと掴んでくれた。

 

 そのそうめんは、室町時代に「索麵(さうめん)」という名で中国から伝えられてきた。索麵の「索」は縄をなうという意味があるそうだ。小麦粉に塩を加えて水で練り、縄をなうように引き延ばしていくことからそう呼ばれるようになった。江戸時代になると、そのさうめんが訛ってそうめんと呼ばれるようになり、字も「素麵」と書かれるようになったという。

 

 そうめんは、その製法によって手延べそうめんと機械そうめんに分けられる。手延べとは読んで字のごとく手作業で究極まで引っ張って延ばしたものであり、機械そうめんは機械で平らに延ばし細く切ったものである。それらの断面は、手延べそうめんは丸く、機械そうめんは四角くなっている。

 

 小麦粉で作る麵にはいろいろな種類があるが、その区別にはちゃんとした決まりがあるようだ。日本農林規格JAS規格)によると、そうめんは直径が1.3ミリ未満、うどんは1.7ミリ以上、そしてその中間が冷や麦ということになるそうだ。私たちは、その食感を季節とその時の気分によって使い分けている。

 

 そうめんの食べ方は代表的なものが薄味のつゆに麵を浸けていただくもの、つゆをかけていただくもの、そしてつゆに入れていただくものがある。前の二つは冷たいのをいただくが、三つ目は温かい状態でいただくのが普通である。いずれも、季節とアイディアが密接に結びついているようだ。

 

 ところで、そうめんがお盆と深い繋がりがあるように思われているのはなぜだろう。一説によると、ご先祖様が実家に里帰りされた喜びを、細長く持続させようと願うため。祭壇のお供えをご先祖様があの世に持ち帰られるとき、背負い紐として使うため。あるいは、帰りに乗られる精霊馬の手綱に使うため。そして、疫病退散の願いに古くから素麺が供えられていた、ということのようだ。

 

 そうめんには、流しそうめんといった遊び感覚の食べ方もあるが、こうしてみてくるとそうめんはやはり夏の食べ物のようだ。食欲の落ちる夏場を、そうめんを上手に食べ分けて乗り切っていきたいものだ。

                      (2021年7月28日 藤原吉弘)