カンコロ

[エッセイ 638]

カンコロ

 

 はったい粉について書いているうちに、カンコロはもっと身近にあったと思うようになった。カンコロとは西日本の方言で、サツマイモを薄く切って天日干ししたものをいう。わがふる里では、それを粉にして蒸し団子の材料として利用していた。当時、小麦粉さえ十分に手に入れることはできなかったので、その代用品として扱われていたのだ。

 

 一戸あたりの耕作面積が狭く、二毛作をフルに回転させても穀類を十分に手に入れることはできなかった。そこで、利用できそうな場所ならどこにでもサツマイモを植えて不足分を補った。そのサツマイモの利用法の一つがカンコロである。カンコロの粉は、水で練って蒸すのが一般的だった。工夫すれば色々あったかもしれないが、とにかくおなかさえ満たされればそれで満足だった。

 

 母がよく作ってくれたのは、黄色い餡子の入った黒い蒸し団子だった。カンコロの粉は薄い黄色をしているが、それを練って蒸すとイカの墨でも入れたようにまっ黒くなる。その中に生のサツマイモを入れておくと、出来上がった結果は黄色いアンコに見えたわけだ。中に焼き芋が入っていると思えば容易に想像がつくはずだ。とにかく、全部がサツマイモでできていたのだ。

 

 それでも、戦後のまだ甘いものの少なかった時代、サツマイモ製の菓子といえども大変な銘菓だった。甘味料など使っていなかったはずだが、当時の子供にとっては垂涎の的だった。あれは小学校高学年の頃だったと思う。それを食べ過ぎて、とうとう胃を痛めてしまった。食糧難の時代、食べ過ぎで胃を痛めるなどきわめて贅沢な話ではある。

 

 その「カンコロ」について、一般にどの程度馴染まれていたのか調べてみた。インターネットにはいくつかの説明があったが、“さつまいもの切り干し。また、それを粉にしたもの”(精選版日本語大辞典)というのが一番当を得ているようだ。その該当地域は西日本全域と考えてよさそうだが、ネットでは長崎県五島列島ならびに愛媛県佐多岬あたりの露出度が高い。

 

 あれから70年にも及ぶ時が流れ、それを記憶する人も少なくなった。しかし、それを味わおうとすれば、いまでも簡単にこなすことができる。さらに、少しばかり手間をかければ、より美味しくいただけるはずである。芋を薄く切ったあと、茹でて天日干しにする。そのカラカラになった薄切りの干し芋を、餅米と一緒にセイロで蒸せば、餅つき器で簡単にカンコロ餅に仕上げることができる。

 

 世の中の発展とともに、食べるものも加工度の高いものが多くなってきた。そんな潮流のなか、素材の魅力を生かした素朴な食べ物も捨てがたいのではなかろうか。ぜひ一度、カンコロを賞味してみてはどうだろう。

                      (2022年8月20日 藤原吉弘)