返還前の香港旅行③

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[エッセイ 532]
返還前の香港旅行③

 

 香港旅行といえば、必ずといっていいほどマカオ観光がセットになっていた。そのマカオは、香港からは南西に約70キロ、当時はまだポルトガル領だった。 香港に着いた日の午後、香港島からジェットホイルで約1時間をかけてマカオに向かった。香港を拠点にした一泊二日の小旅行だった。


 街のレストランで夕食を済ませると、散歩がてら近くのカジノに向かった。むかし、ソウルのウォーカーヒルで多少経験はしていたが、大きな賭など及ぶべくもない。結局、スロットマシンでお茶を濁すことにした。これなら、パチンコに毛の生えた程度、家内も安心して遊んでいた。手持ちのコインはもちろん底をついたが、損は幾ばくでもなく、楽しめただけ得をした気分になれた。


 翌日は市内観光に出かけた。庶民用と思われるアパート群を抜けると、港のそばに由緒ありそうなお寺があった。マコウ廟という中国風のお寺だった。なんでも、マカオ最古のお寺でマカオ発祥の地といわれているそうだ。天井から渦巻き状の糸香がたくさん下げられており、家内はその光景に大変興味を持ったようだ。お気に入りの記念写真もきれいに撮ることができた。


 車は、私たちを中国との国境へと誘った。途中、水に浮かべられたカジノが目に入った。へんぴなところのようだが、結構賑わっているという。いよいよ国境検問所へ。境界の両側に建物があり、中間にゲイトがある。かなり観光を意識した作りになっているようだ。ドラマチックな説明を付ければ、単なる国境も立派な観光資源になる。写真にしたら、ちゃんと絵にもなるようだ。


 最後に、マカオ観光のもう一つの柱である教会の跡に向かった。セントポール天主堂の跡である。小高い丘の上に、建物の前面の壁だけが残っている。その前は広場、そしてその先は広い下りの石段、西洋の教会ならどこにでもありそうな風景である。なぜこわれたままにしてあるのか、詳しい話は聞きそびれてしまった。それにしても、高いところに壁だけあってよく倒れないものだ。

 

 その教会前の広場では中国の獅子舞が舞われていた。テレビで見たことはあるが、実際に目にするのは初めてである。獅子頭の顔が結構可愛い。家内を石段の途中に立たせ、教会と獅子舞をバックになかなかいい写真が撮れた。


 マカオは、1999年12月20日に中国に返還され、いまは特別行政区になっている。いまでは独自の空港もあり、日本からも成田、関空、福岡の3箇所から直行便がある。昨年10月には、香港新空港のあるランタオ島まで、世界一長い55キロもある海上大橋「コウジオウ大橋」でつながった。


 いま、マカオや香港を訪れたら、すっかり変ってしまった光景に呆然とするだろうか。やはり、懐かしさにこみ上げてくるものがあるだろうか。
                     (2019年10月12日 藤原吉弘)