返還前の香港旅行①

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[エッセイ 530]
返還前の香港旅行①

 

 香港が大荒れに荒れている。一体どこへ行こうというのだろう。いずれにしても、あの「自由」が売り物の香港の姿は、二度と見られないような気がする。そこで、返還前の香港について、一観光客から見た様子を記録しておくことにした。さいわい、旅行日記を残しておいたので、それをベースに少し手を加えてみた。


 それは、1995年4月30日からの5日間、ゴールデンウィーク真っ最中の旅だった。利用したのは日本旅行の「気ままにステイ香港・マカオ」という、自由行動主体のパック旅行だった。香港が返還されたのは1997年11月1日、返還前の姿を目に焼き付けておきたいと、初めての香港旅行に出かけたわけだ。


 当時、空港はまだ九龍半島のつけ根、海に突き出た滑走路1本の貧弱なものだった。着陸前、ビルの高さと数の多さに圧倒され、大いに感動もした。まさにビルの間を縫って着陸する感じだった。このあと、マカオへの小旅行に出かけたが、テーマを香港に絞りたいので、話は2日目のホテル周辺から始めることにする。


 案内されたホテルは、ハイアット・リージェンシーだった。九龍半島の中心街、ネイザンロードに面し、香港島へ向かう地下鉄の駅にも直結していた。地の利は抜群である。さっそく、ホテル周辺を散策することにした。


 外に出ると、そこは九龍のメインストリート、さっそく、「社長、にせものの
時計が・・」と若い男が寄ってきた。このおにいさんたちには50m~100mおきに声をかけられいささか閉口した。裏通りに入ってみると、その辺も結構な商店街、とくに衣類の店が多く、家内はその都度足を止めていた。


 裏通り商店街がとぎれるあたりに、バッグ類を並べた店が目を引いた。ブランド物が多かったが、店のマダムは類似品をすすめた。Cと逆向きCがからみあったマークのブランド品がある。それを真似たのだろう。Bと逆向きBが背中合わせになったマークのバッグがお勧めだった。少しばかり抵抗はあったが、デザインは悪くない。結局、値段交渉で粘ったあげくにそれを買った。


 裏通りから、ブロックをひとまわりしてホテルの近くまでくると、男物のカバン屋があった。途中にも何軒かあったが、入ってみようという気にはなれなかった。その点、品揃えや入りやすさから、その店に入ってみる気になった。お目当ての書類カバンはすぐに見つかった。デザインがいい、皮も悪くない。あとは値段交渉しだいだ。1万円程度ならと思っていたが、値札は約2万円、「帰る」「それならもう少し負ける」を繰り返し、結局1万円で買うことができた。


 買い物はこの後も続いた。香港旅行は観光も楽しかったが、結果から見れば、ゲームにも似たショッピングに、その大半を裂いたことになる。


 一国二制度がうまく機能し、かつての自由な香港に戻ることを期待したい。
(20019年10月7日 藤原吉弘)