ロスの休日

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[エッセイ 86](既発表 4年前の作品)
ロスの休日

 私達は、ハリウッドの散策に満足し、ビバリーヒルズに向かおうとしていた。地下鉄路線はなく、タクシーも捕まりそうにないのでやむをえず路線バスを利用することにした。バス停と思われるブースはすぐに見つかったがなにも書いてない。

 女子高生らしい二人連れに教わって204系統というバスに乗った。料金は1ドル35セント、前乗り前払いである。しかしそんなことは車内でしばらく様子を見ていてはじめて分ったこと、2~3停留所走ったあとで「ソリー」といって料金箱に投入した。

 車内では、路線の掲示や停留所の案内アナウンスなどは一切ない。しょうがないので、適当に見当をつけて降りることにした。降りてみたら、偶然にもその交差点には「ビバリー通り」と書いてあった。しかし、期待した雰囲気とはまったく違う。やっとの思いで地元の人に聞いてみたら、ここからビバリーヒルズまでは歩いて1時間はかかるという。

 どのようにバスを乗り継げばそこにたどり着けるのか、目の前のガソリンスタンドで聞いても相手の説明はちんぷんかんぷんであった。タクシーを捕まえられる可能性は皆無に等しい。時計を見たら12時半を少し回っていた。腹は減る、トイレにはいきたい。

 きょろきょろしていると、遠くにレストランらしいものが見えた。少しばかりうらぶれたインド料理の店であった。ツナの特大サンドとコーヒーで一息入れ、トイレも済ませることができた。食事代やチップとは別に、5ドルを出してタクシーを呼んでもらったら10分足らずでやってきた。サンタモニカまで30分少々、思いがけず快適なドライブとなった。

 ツアー最終日、この日はまる1日自由行動であった。地下鉄網の整備されたところなら、庶民感覚で効率よくのびのびと楽しめる。しかしここロサンゼルスは、その対極にある典型的な車社会の街であった。前夜遅く到着したホテルのフロントと売店で聞いてみたが、バスの路線図は手に入れることができなかった。私たちは、準備不十分なまま行動をおこさざるをえなかった。

 ホテルのあるダウンタウンからハリウッドまでは地下鉄、そこからバスとタクシーでサンタモニカへ、帰りは1時間をかけた各駅停車のバスの旅となった。結局ビバリーヒルズには行き着くことができなかったが、路線バスでの移動は街の風景と庶民の生活ぶりをうかがう絶好の小旅行となった。

 できる限り公共交通機関を使う。市場やマーケットには積極的に足を踏み入れる。これが私の旅のモットーであり、訪問先を深く理解する上での一番の近道ではないかと信じている。単なる度胸は無謀でしかない。十分な事前準備と自己責任が厳しく追及されることはいうまでもない。一方受け入れ側には、こうしたことへの積極的な理解と、旅行者の目線に立った態勢の整備を強く求めたい。
(2005年1月29日)