タイムカプセル

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[エッセイ 185](新作)
タイムカプセル
 
 このところ、近所のスーパーやコンビニでは、ロール状に巻かれたピンク色のごみ袋を目立つ棚に並べている。私たちの市でも、10月からごみ処理が有料化されることになったのだ。ごみ袋の値段、つまり私たちがごみ処理に払う費用は10リットル当たり20円に相当する。

 わが家では、それに先駆けて不要なものをできるだけ多く処分しておくことにした。暑さがおさまりかけたころをみはからって、不要になってしまった品物の選り出し作業を始めた。物置や押入れあるいは天袋には、そのようなものがぎっしりと詰め込まれている。

 「あれ、この大きな鍋は誰々さんの結婚式の引き出物ではなかったの?」「そういえば、この立派な銀製のカップはゴルフコンペで優勝したときのものだ!」「そうそう、この置物は北陸を旅行したときにわざわざ買ってきたものだ」

 こうして、一つひとつ埃を払いながら思い出に浸っていた。こんなことをしていては、いつまでたってもらちがあかない。この際、全部引っ張り出して要るものと要らないものに分けよう。奥の押入れから順番にやっていこう。

 「あれ?このグローブは入学祝に買ってやったものではなかったかなあ」「こんなところに整理していない写真がたくさんあった。あのころは若かったなあ~」「このスーツは転勤のとき買ったものだ。すっかり虫に食われてしまっている」作業はまたも停滞状態に陥った。

 不要品といってもわが家で使わないだけのこと、日用品はほとんどが新品のままである。結局使うことのなかった蚊帳も珍しがられるかもしれない。置物なども愛好者がいるはずだ。このまま捨てるにはあまりにも忍びない。

 ダンボール3箱、日用品やカバンなど20点あまりを駅前のリサイクルショップに持ち込んだ。置物は、2点ほどを骨董屋が引き取ってくれた。本や衣類は、ダンボールとともに資源ごみとして回収してもらった。あとには扇風機と石油ストーブが2台ずつ残ったが、これは通りがかりの民間業者に持っていってもらった。1台あたり300円の手数料で引き受けてくれた。

 こうして、家内が仕切ったわが家の遺跡の発掘作業は無事終了した。家庭を持って以来の、積もりにつもった垢の洗い流し作業であったといってもいい。しかし、この垢は他人から見ればただのごみであるが、私たちにとってはタイムカプセルに保存されてきた大切なお宝である。

 1970年の大阪万博を記念して埋められたタイムカプセルは、5,000年後の6970年に開けられるという。私たちの守ってきた家庭用のタイムカプセルは、たまには開けて、自分たちの足跡を振り返ってみてはどうだろう。
(2007年9月28日)