伊予かんマーマレード

イメージ 1

[エッセイ 303]
伊予かんマーマレード

 わが家には、長い間使い続けてきた寸胴型のホーロー鍋がある。ただ、その底には黒く焦げ付いた跡があり、ここ1年ばかり取り除くことができないままになっていた。その焦げ付きがあっという間にはがれ、せっかく作ったマーマレードの中に混じり込んでしまった。

 数週間前、ふる里の親類から伊予かん1箱を送っていただいた。以来、わが家の食卓の友として大切な役割を果たしている。ただ、そのたびにむいた皮をそのまま捨ててしまうのはもったいないと思っていた。結構嵩張るので、ゴミの量も馬鹿にはならない。そんな折、以前知人からいただいた手作りマーマレードのことを思いだした。さっそく、わが家でも挑戦してみることにした。

 伊予かんを6個用意する。皮をむき、房からタネを取り除いて実の部分をジュースにする。最初は手で搾っていたが、面倒なので途中からジューサーに変えた。タネは、ペクチンにするため、小鍋に入れて小量の水に浸しておく。一方、皮は3個分を、白綿をつけたまま薄く刻み、軽くもむように3~4回水洗いして苦みをとる。ザルにあげて水を切り手で絞る。

 ジュースと皮を寸胴鍋に入れ、1~2時間置いて皮に液がしみ込むのを待つ。最初は強火で、途中からは煮こぼれしないよう中火にしてアクをとりながら30分くらい煮る。頃合いを見て砂糖300グラムを入れる。一方、小鍋に用意してあったタネを煮詰め、量にしてカップ半分くらいのペクチン液を作る。それを寸胴鍋に入れると、ジュースはとろみを増して透明感のある琥珀色に煮詰まる。垂らしてみて糸を引くようになれば出来上がりである。

 しかし、せっかく作ったマーマレードだが、中には小さな焦げの破片がたくさん混じっていた。毒になるほどのこともないので、大きいものだけ取り除きあとは気にしないことにした。皮が多すぎ、ややむしゃむしゃするが、歯ごたえがあると思えば納得がいく。少し苦みが強かったが、それもビールと同じでコクがあると思えばそれも悪くはない。

 昨日、2回目のマーマレード作りに挑戦した。今度はなべの焦げを気にすることもない。なべの焦げは苛性ソーダ重曹あるいはお酢を使えば簡単に落ちるそうだが、前回は伊予かんジュースがその役割を果たしたようだ。今度は皮を2個分に減らし、水洗いの回数を増やしてむしゃむしゃ感と苦味を減らすことに成功した。色は見事な琥珀色、舌触りはなめらか、味は甘さと苦味が絶妙に溶け合っていた。

 ある人から、皮は煮ると苦味が減ると聞かされた。次はそれに挑戦したいと思っている。生ごみは減り、わが家の朝の食卓はいっそう彩りが豊かになった。
(2011年3月25日)