コスモス

[エッセイ 107]
コスモス

 ♪薄紅の秋桜が秋の日の 何気ない陽溜りに揺れている 此の頃 涙脆くなった母が・・・♪。これは、昭和五十年代中頃にかけてヒットした山口百恵の、「秋桜」の出だし部分である。荒れ地で、そよ風に揺れる淡いピンクのコスモスを見かけるとき、ふとこの歌を口ずさんでしまう。

 休耕田では、黄色いひまわりに替わって、赤、白、ピンクのコスモスたちが広大な花の楽園を演出している。その群生の様は、春霞に浮かぶ吉野の桜にもひけをとらない。見るからに柔らかそうな繊細な葉っぱ、優しそうな八枚の舌状の花びら。一本一本、一葉一葉手にとって見ても、心のぬくもりが伝わってきそうな優雅な感覚にとらわれる。この花は、コスモスというカタカナの名前より、やはり秋桜という和名が似つかわしい。

 このコスモスたち、原産地はメキシコの標高二千五~六百メートル前後の高地だそうだ。それが、十八世紀後半に宗主国のスペインに渡り、明治の半ばには日本にやってきた。明治も末頃になると全国に普及し、各地で栽培されるようになったという。キク科コスモス属として分類され、和名を秋桜またはオオハルシャギクという。

 コスモスは、たとえやせた土地でも、日当たりと水はけさえよければよく育ち、きれいな花を咲かせる。日が短くなると開花を急ぐので、九月上旬に種をまけば、十月には丈が短いままつぼみが出るという。そういえば、仙台在住のころ、庭の半分くらいにこのコスモスを植えていた。毎年大きく育ちすぎ、花も盛りのころになると秋雨の重みで倒れてしまうことが多かった。肥料を控え目にし、植える時期をもう少しあとにずらせばよかったのかもしれない。

 ところで、コスモスといえば宇宙のことを指すはずだが、なぜ花の名前になったのだろう。コスモスの語源はギリシャ語で、本来は秩序を意味する。それが転じて、おもに宇宙のことをいうようになった。ギリシャ人は、宇宙の誕生によって秩序と調和のある世界が現実のものになったと考えたのである。そして、宇宙誕生前の混沌とした無秩序な状態を、彼らはカオスと呼んでいる。花のコスモスは、秩序から転じた装飾という意味からつけられたものである。

 コスモスの花言葉は、乙女の純潔、乙女の心情、真心、調和、そして美麗である。さらに細かく言えば、ピンクのそれは少女の純潔を、赤は調和と愛情を、白は、美麗、純潔、優美をいう。

 古来より、私たちは最高の表現で秋桜を愛でてきた。彼女たちもまた、その期待に見事に応えてくれている。これからも、地球上すべての場所で秩序と調和が保たれ、美しい秋桜の花に覆いつくされることを願ってやまない。
(2005年10月22日)