2006-01-04から1日間の記事一覧

[エッセイ 111] 漆 紅葉の最終ランナー、ウルシの木が顔を真赤に染めて通り過ぎていく。わが故郷では、そのウルシの木たちがお正月まで待っていて、帰省客の目を楽しませてくれる。 子供のころ、ウルシの木の樹液によく被れた。野山を駆け回ったり、山林の下…

九州横断ツアー

[エッセイ 110] 九州横断ツアー なぜか最近、高千穂峡の写真が目につくようになった。垂直の断崖に挟まれた瀞、静かな水面に浮かぶ一隻のボート、上方から覆い被さる大木の黒い陰と絶壁に水煙をあげる白い瀑布。いやがうえにも私の旅情をかきたてる。 その高…

芋煮会

[エッセイ 109] 芋煮会 ある日、職場の同僚からイモニ会への誘いがあった。「最近よく耳にするけど、そのイモニ会って、ナニ」「来ればわかりますよ。とにかく、おにぎりを人数分用意してきてください」。仙台に赴任した最初の年のことである。 初秋の日曜日…

亥の子(いのこ)

[エッセイ 108] 亥の子(いのこ) “Trick or treat! (お菓子をくれないといたずらするよ!)”。仮装した子供たちが、こう叫んで家々を訪ねる。応対に出たその家の主人は、 ”Happy Halloween (ハロウィン。おめでとう)”と応じて、用意してあったお菓子をプ…

コスモス

[エッセイ 107] コスモス ♪薄紅の秋桜が秋の日の 何気ない陽溜りに揺れている 此の頃 涙脆くなった母が・・・♪。これは、昭和五十年代中頃にかけてヒットした山口百恵の、「秋桜」の出だし部分である。荒れ地で、そよ風に揺れる淡いピンクのコスモスを見かけ…

虫の声

[エッセイ 106] 虫の声 窓から差し込む月の光が、あまりにも透きとおって見えたので、そっと部屋の明かりを消してみた。すると今度はテレビの音が、世俗に汚れた雑音に思われてきた。静寂を取り戻したリビングルームは、平安朝の宮殿へと早替わりし、庭先で…