ラーメン

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[エッセイ 509]
ラーメン

 NHKの朝ドラ「まんぷく」が好調なようだ。インスタントラーメンを開発した安藤百福夫妻の半生を描いた物語である。その放送でも、いま最大の山場を迎えようとしている。いまでは大企業に成長したその会社は、ユニークなキャラクターでも世界を魅了した大坂なおみ選手のメインスポンサーでもある。

 安藤百福が開発に熱中していたころ、一般のラーメンは、醤油スープに支那竹と鳴門巻き、それに海苔が一枚乗せられている程度の簡素なものだった。野菜のたっぷり入ったタンメンもあったが、ラーメン屋のそれといえば支那竹入りの麺ときまっていた。呼び名も、支那そばや中華そばもごく普通に使われていた。

 ラーメンは、食事というより小腹が空いたときの間食という色合いが濃かった。札幌のすすきのや博多の中州では、酔客目当ての屋台が深夜までのれんを出していた。住宅街では、チャルメラを吹きながら屋台を引いて、受験生や夜なべ仕事の客を相手に商売をしている業者も数多くいた。

 そのラーメンは、幕末から明治の初め頃にかけて、国内各地の中華街を起点に庶民の間に広まっていったようだ。漢字ではいろいろな書き方があるが、「拉麺」と書くのが一番当たっているようだ。「拉」とは、この場合強引に引っ張るという意味になる。いまでは、麺は小麦粉を水で練って平たく伸ばしたものを細く切るのが普通だが、元はその固まりを何回も引き延ばして麺状にしたようだ。

 ラーメンの麺を打つときに使う水は、「かん水」と呼ばれるアルカリ塩水溶液だそうだ。あのラーメン独特の風味、感触、そして黄色がかった色合いはその水の効果によるという。かん水は、内モンゴルの塩湖で採取されていたのが始まりで、現在は炭酸ナトリウムなどから工業的に作られるそうだ。麺の太さは、細麺から太麺まで各種あり、スープやトッピングによって使い分けられている。

 スープのだしは、鶏ガラ、鰹節、削り節、煮干し、昆布などが一般的だったが、豚骨や牛骨なども加わって、さらに多様さが増してきた。その味付けは、醤油、味噌、塩などで、それに砂糖、うまみ調味料、みりん、酒、酢などを適度に組み合わせているようだ。さらには、香味料としてオリーブ油、ごま油、ラード、ネギ油などが使い分けられている。トッピングの具は、チャーシュー、卵、鳴門巻き、のり、メンマ、ネギ、各種野菜など店によって多種多様である。

 中国生まれの日本育ち。日本独特の食文化を育み、本家の中国や台湾などでも日本のラーメンはとくに「日式拉麺」と呼ばれているそうだ。たかが、「スープ+麺+支那竹」という単純な食べ物だったのに、競争と進化を繰り返し、いまや日本料理の一角を占めるまでになった。ラーメンは、さらに多様化と進化を重ね、日本発のラーメン文化として広く世界に羽ばたこうとしている。
(2019年2月3日)