蝋梅

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[エッセイ 480]
蝋梅

 雪の話題ばかりが目につく大寒のいま、木に咲く花といえばサザンカの生き残りか早咲きのツバキくらいしか見当たらない。花の色は華やかな赤やピンクなのに、いずれもどこか寂しい雰囲気を漂わせている。そうかといって、ウメやカワヅザクラを急かしてみても、開花にはまだちょっと間がありそうだ。「マンズ咲く」と、春真っ先に咲くはずのマンサクでさえ蕾はまだ固いようだ。

 そんな空白を埋めてくれるのがロウバイである。「蝋」のように無表情といわれるが、あの黄色い花は、寒さに震える私たちを明るく勇気づけてくれる。わが家からの徒歩圏内では、4カ所でそれらを目にすることができる。いずれも庭木として植えられたもので、手入れもきちんとされている。散歩の途次、彼女らに出会うとなんとなく嬉しくなり、ちょっぴり元気をもらった気分にもなる。

 これらの木の枝振りは、どう見てもウメにしか見えない。ウメの花が黄色く突然変異したのではないかとさえ思わせる。さらには、その名のとおり蝋細工ではないかと錯覚させられることもある。しかも実に精巧に作られているように見える。たしかに、無表情で仮面のようだ。花心がえんじ色に彩られたものもあるが、それでもどこか冷たさは隠しきれないようだ。

 このロウバイ、蝋梅と書かれていても、ウメではなくクスノキの一種だそうだ。たしかに、よく手入れされた庭の木は、その姿もウメに似せられている。しかし、人手の届かない木は、多数の枝が根元に近いところからまっすぐ伸びていて、ウメと見間違えられることはまずなさそうだ。樹皮も、ウメとはだいぶ違った表情をしており、別の種類であることがはっきりとわかる。

 ロウバイは中国原産で、江戸初期に日本に伝えられたという。中国では、梅、椿、水仙とともに「四雪中花」といわれているそうだ。主な種類としては、素心(そしん)蝋梅、満月蝋梅、和蝋梅などが上げられる。素心蝋梅は花全体が透き通った黄色一色だが、あとの2種は花心の部分が茶褐色である。

 このロウバイ、花の少ない時期の貴重な存在なのに、人々へのなじみという点ではいま一つぱっとしない。日本での歴史が比較的浅いということもあるかもしれないが、木に咲く黄色い花というのが日本人の好みに合わないのかもしれない。ロウバイの名所がないわけではないので、一度足を運んでみてはどうだろう。我が県内では、松田町の「寄(やどりぎ)ロウバイ園」が有名である。周辺地域では、長瀞町宝登山安中市の新井ろうばい園、それに鹿沼市の上永野蝋梅の里などがあげられる。

 あと数日で立春を迎える。ロウバイも中継ぎとしての役割を終え、もうすぐサクラやモモなどのより華やかな花にバトンタッチすることになるはずである。
(2018年1月29日)