長瀞の紅葉

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[エッセイ 475]
長瀞の紅葉

 先週のことである。お天気も安定し、秋も深まってきたので、明日あたり大山にでも紅葉見物に行ってみるかと思っていた。そんなとき、NHKニュースで埼玉県の長瀞の紅葉が取り上げられた。「月の石もみじ公園」というところの、見事な紅葉が映し出されていた。「そうだ、長瀞へ行こう!」

 長瀞へは、実は行ったことがなかった。一度行ってみたいと思いながら、なぜかそこだけは縁がなかった。今年の夏に放映されたNHKの「ブラタモリ」でもそこが舞台となり、いっそう関心を持つにいたった。こうなったら、意図的にでも機会を作らなければだめだろうと考えていたところだった。

 その翌日、さっそく長瀞の紅葉見物に出かけることにした。圏央道もできたことだし、その気にさえなれば簡単に行き着くはずである。事実、朝ゆっくり家を出て、11時前には現地に着いた。紅葉見物に来たのではあるが、時間もあることなので、まずは長瀞の売り物である「岩畳」と渓谷美を見物することにした。

 目の前の河原に、少し緑がかったような巨大な岩が、敷き詰められたように広がっている。一枚岩なのか、あるいは大きな岩が連なっているのか定かではないが、上流に向かって延々と続いている。渓谷の対岸にも岩の壁が連なっているが、こちらは壁のようになってそのまま山の一部をなしている。

 川の流れは緩やかで、「瀞」の名に相応しい静けさをたたえていた。その緩やかな流れに乗って、遊覧船がゆったりと下ってきた。一艘、また一艘。上流から次々と下ってくる。そういえば、その瀞の和舟は人気が高く、待ち時間は40分以上になるという。紅葉見物も忘れ、その光景にうっとりとみとれていた。

 紅葉の名所とうたわれた月の石もみじ公園は、岩畳から上流へ15分くらい歩いた渓谷沿いにあった。ブラタモリにも登場した埼玉県立自然の博物館に隣接し、日本地質学発祥の地の碑の立つ自然豊かな公園だった。公園はそのまま渓谷へと続き、あの岩の畳が足下まで伸びてきてさらに上流へと連なっていた。

 一口に紅葉といっても色調は千差万別である。真っ赤なものもあれば、朱色や黄色に近いものもたくさん混じっている。お日様はすでに頂点に近いところまで達し、その日射しをあたりにまんべんなく降り注いでいた。紅く染まったカエデが松の緑と見事なコントラストをなし、その逆光に生きいきと輝いていた。

 公園内の、有り余るほどの豊かな紅葉もみごとだが、瀞の流れを挟んだ対岸の緑の合間に見え隠れする紅色もまたおつなものである。豊かな、そして変化に富んだ自然があってこそ、紅葉もいっそう引き立つというものである。

 帰途は、これも初めての秩父盆地を経由してみることにした。急がば回れ。それでも、夕闇迫るころにはわが家に無事に帰着することができた。
(2017年11月26日)