[エッセイ 535]
町内会のバス旅行
今回の町内会のバス旅行は、悪天候との戦い、常識外との戦い、そして高齢化との戦いでもあった。隣りあう三つの自治会と二つの老人クラブ、それにグラウンドゴルフのクラブが協力し合って立ち上げた今回のバス旅行は、こんなテーマと向き合っての旅となった。
バスは、善男善女34名を乗せて、午前8時に目的地である群馬県の鬼石に向けて出発した。自宅を出るとき降り始めた雨は、少しずつ強くなってきた。南方からやってきた雨は、北の目的地にはまだ到達していないかもしれない。急遽順番を変えて、真っ先にみかん狩りへと向かうことになった。
温州みかんの北限と言われるこの地に、確かにみかん畑はあった。いままで、みかんの北限は小田原あたりだろうと考えられていたので常識外の驚きである。海沿いの温暖の地から直線にして100キロも北、しかも山間の寒冷地にその畑はあった。やや小ぶりだが間違いなく温州みかんがなっていた。
小さくて、市場に出せるようなものではないが、甘さもそれなりに感じられた。食べ放題ということなので、小雨のちらつく中で2~3個をいただいた。さらに、お土産はプラ袋に詰め放題といわれ、小さな袋にぎゅうぎゅう詰めにして持ち帰った。帰宅後、はかりに乗せてみたら1キロちょっとあった。
なんとか頑張ってくれていた雨も、みかんを下げてバスに戻るころには本降りになっていた。それでも、次に予定されている桜見物にはそれほど影響はなさそうだ。みかん畑からそれほど遠くない山間地に、「桜山公園」という冬桜がたくさん植えられた32ヘクタールにも及ぶ広大な公園があった。
“上州の吉野山”などというにはちょっとオーバーだが、園内に植えられている冬桜は7,000本にも及ぶそうだ。いまが満開だが、花は小さく控えめで、おまけにまばらである。絢爛豪華と形容されるソメイヨシノとはまったく逆の雰囲気である。花は梅のようにも見えるが、木の肌はまさしく桜である。
実は、こうしたバス旅行は、1月には老人会の初詣ツアーが、秋には自治会主催の観光ツアーが、毎年多くの人を伴って行われてきた。最盛期には両ツアーとも希望者が多く、補助椅子すら使うこともあった。しかし、参加者は年とともに少しずつ減り続け、とうとう2つのツアーの両立は難しくなってきた。
そこで、ここ数年は両者を統合して催すようになった。そして、ただ一つになったバス旅行も、参加者の減少に悩まされるようになった。催行できるかどおか、幹事たちは苦闘を続け、やっと今回の日帰りバス旅行にこぎ着けた。
大雨に見舞われながらも、普通では考えられない冬の桜見物と寒冷地のみかん狩り、そして人集めと、盛りだくさんのテーマを抱えた話題に満ちた旅だった。
(2019年11月23日 藤原吉弘)
[写真]
上:北限のみかん
中:桜山の冬桜
下:昼食に立寄った長瀞の紅葉