サザンカ

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[エッセイ 536]
サザンカ

 

 立冬を前にサザンカが咲きはじめた。まわりに紅葉はたくさんあっても、木々に付ける花は皆無に等しい。サザンカは、この時期大変貴重な存在である。ピンクに始まり、それを追いかけるように紅や白の花が開きはじめる。しかし、赤く咲いてもなぜか寂しげに見えるのは、寒さが厳しくなってきたためだろうか。


 このサザンカ、わが家では生垣用に、東側と北側の二面に植えている。家を建てたとき、あの艶やかな小ぶりの葉っぱが環境に合うと思ったからだ。常緑樹なので一年中緑を茂らせ、花のまったくなくなった初冬には、けなげに赤い花まで咲かせるのが気に入っている。


 しかし、最初はきれいだと思っていたが、そのうち、花びらが風に乗ってところ構わず散らかりまわるのが気になりだした。量が多く、色も赤いので余計目立つ。知らないふりもできないので、3日に一度は周りの道路を掃除しなければならない。花びらは、掃くはしからまた散らかってくる。


 このサザンカ、漢字では山茶花と書く。しかし、この漢字、どのように読んでもそうは読めない。最初のうちは、サンサカと呼びそのとおり山茶花と書いたようだ。それが、いつの間にか山と茶がひっくり返って茶山花となり、発音もサザンカと呼ぶようになったらしい。そして、呼び名はサザンカのまま定着したが、漢字は元の山茶花に戻ってしまったようだ。


 サザンカは、ツバキ科のツバキ属に分類される。ツバキに最も近い存在で、両者はほとんど区別がつかないが、もっとも大きな違いは花の散り方である。散るとき、ツバキは首からポトリと落ちるが、サザンカは花びらがばらばらに散る。昔の武士は、首が落ちるということからツバキを忌み嫌ったという。


 サザンカの原産は日本、それも山口県とそれより南の四国、九州、沖縄の温暖な地方だそうだ。冬に咲くことから寒さに強いイメージがあるが、元々は温暖な土地を好むようだ。その証拠に、日本原産の北限は佐賀県の千石山で、そこに自生するサザンカは天然記念物に指定されているそうだ。


 サザンカは演歌によく取り上げられる。寒い時期に咲くことから、その寂しさがイメージされるためかもしれない。確かに、その花言葉は「困難に立ち向かう」や「謙譲」ということで、季節に例えれば冬のイメージにぴったりである。


 わが家の敷地には、造成当時からのサザンカも一本ある。大木に育ったが、半世紀近い歳月を経て往時の勢いを失いつつある。垣根もまた、花の数を大きく減らしてきているようだ。若木に植え替えればすむことだが、できればその花言葉のとおり、困難を乗り越えてまた花びらを大いに散らかしてほしいものだ。


 花びらの後片付けくらい、いくら手間がかかっても喜んで続けるつもりだ。
                     (2019年11月28日 藤原吉弘)