北上展勝地のサクラ

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[エッセイ 395]
北上展勝地のサクラ

 もし、東京からの新幹線に乗り遅れても、あるいはその列車が大幅に遅れても、乗車予定の観光バスにはすぐに追いつけると思っていた。最初の訪問地、北上展勝地は、新幹線の停車駅、北上駅のすぐ近くにあるからだ。地図で見ると、駅の東側、直線で300メートルくらいのところに北上川が流れている。川には渡し船があり、対岸の船着き場の先が私たちの目的地である。

 さいわい、列車は予定時刻に着いた。バスも予定どおり出発した。バスは、少し上流の大きな橋を迂回した。車窓からは、春を待ちわびていた花たちが一斉に開いている様子が手に取りようにわかる。畔道やちょっとした空地はスイセンの花で埋め尽くされていた。サクラが視界に入り始めたころ、バスは駐車場待ちの渋滞にはまった。結局、目的地までは50分を要した。

 桜大路と呼ばれる見事な桜のトンネルが、北上川の左岸に延々と延びている。その総延長は2キロメートル、サクラの総数は周辺まで含めると1万本にも達するという。サクラの木、一本一本も風格のある堂々とした大木である。いずれも90年を超える風雪を耐え抜いた老木たちである。すでに幹だけになったような木もあるが、それでも残った枝にはいっぱいの花をつけている。

 2~3日前がピークだったのだろうか、花はやや盛りを過ぎた感がある。時折、吹き抜ける一陣の風に花びらが舞う。絢爛豪華な舞台とはこのような場面をいうのかもしれない。花の見ごろは8~9分くらいがいいと思っていたが、こうして花吹雪の中に身をさらすのも悪くはない。

 その花の舞台を、大勢の人たちがそぞろ歩き、観光馬車もその群れに混じる。この桜並木から北上川の流れに目をやると、遊覧船や渡し船がゆったりと行き交うのが見える。その流れに続く河川敷は一面の緑に覆われ、まばらに配置された大木とスイセンの黄色い株が絶妙のコントラストをなしている。

 実は昨年、初めて遠出のサクラ見物に出かけた。行先は、奈良県吉野山だった。今年もぜひどこかへ行ってみたいと考えた。真っ先に思いついたのが弘前や角館を巡るみちのく花見旅である。このとき、北上展勝地というのは頭になかった。なかったというより知らなかった。ところがいろいろ調べてみると、「みちのく三大桜」としてこの地が必ず取り上げられている。

 “三大”と銘打つからには、無理にでも同等の名所を3カ所揃えなければならない。それも、花の時期が同じころでなければならない。そうして、偶然浮かび上がったのがこの地だろうと少々軽く考えていた。

 ところが、世の中知らないことばかりである。こんな便利な場所に、こんな素晴らしいサクラの名所があったとは・・。
(2014年5月3日)