角館のサクラ

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[エッセイ 396]
角館のサクラ

 演歌の好きな人なら大抵の人が知っている。藤あや子さんの故郷が角館であることを。湘南に住む中高年なら多くの人が知っている。茅ヶ崎出身の小桜舞子さんのデビュー曲、秋田県中心に大ヒットしたという「恋する城下町」の舞台が角館だったことを。みちのく花見旅二つ目の訪問地はその角館である。

 街に入ったとたん、私たちはふくよかな優しい雰囲気に包まれた。広い街路、両側に連なる黒い板塀、その敷地内には背の高い常緑樹とシダレザクラの古木が植えられ、通りに覆いかぶさるように張り出している。桜は、ピンクの花をいっぱいに付け、枝の先端は地面すれすれにまで垂れ下がっている。

 花はちょうど満開を迎えたようだ。その様は、柳の大木が一斉に花をつけたようであり、大きな滝が空から落ちてきているようでもある。そしてその美しさは、仕掛け花火にも例えることができよう。ソメイヨシノの華々しさに圧倒された直後だけに、その優しさには格別の安らぎを覚えることができる。

 この町で大切に守られてきたシダレザクラは、樹齢300年を越えるものが大半だという。その数450本、内162本が国の天然記念物に指定されている。そして、シダレザクラの舞台である武家屋敷の街並は、みちのくの小京都と呼ばれ、「国の重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている。

 ここ角館は、市街のすぐ脇を桧木内川という大きな川が流れおり、その堤もまた国の名勝に指定された桜の名所である。こちらの花はソメイヨシノで、武家屋敷街とは対照的な華やかな景観をつくりだしている。この日は日曜日のせいもあってか、河川敷には賑やかな宴の席が延々と連なっていた。
 
 この町は、伝統的な武家屋敷を舞台としたシダレザクラと、雄大な川のそばに2キロにもわたって連なるソメイヨシノが共存する全国有数の桜の名所である。二つの対照的な顔を合わせて、日本さくら名所100選「桧木内川堤・武家屋敷」として、広く世に知られている。
 
 ここ角館は、桜の季節に限らず、観光地として一年を通して人気が高い。特に若い女性には圧倒的な人気がある。2年前には、とうとうNHKの人気番組「鶴瓶の家族に乾杯」の舞台にまでなった。笑福亭鶴瓶さんとゲストの野際陽子さんがこの角館を訪ね、珍道中を繰り広げたのはまだ記憶に新しい。

 角館町は、2005年9月、田沢湖町及び西木村と合併して仙北市となった。田沢湖は水深日本一の湖であり、湖水に建つ金色の彫像・タツコ像や最近西湖で再発見された絶滅種・クニマスの原産地だったことでも知られている。

 角館、田沢湖という観光の二つの目玉をもつ仙北市、また機会をつくって別の季節にぜひ訪れてみたいものだ。
(2014年5月7日)