千鳥ヶ淵の桜

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[エッセイ 417]
千鳥ヶ淵の桜

 一昨年は奈良県吉野山、昨年は北上、角館、そして弘前と、関西と東北の桜の名所を広域にわたって巡ってきた。さて今年はどうする?考えてみると、次に行きたい場所が思いつかないことに気がついた。そうだ、東京にいくらでも桜の名所はあるではないか!

 かくして、前夜のテレビニュースに導かれるように、皇居の千鳥ヶ淵へと向かった。地下鉄を利用して、最寄り駅の半蔵門で降りた。英国大使館の脇を抜けるあたりから目の前の風景は一変した。半蔵門濠を見下ろす堤の上は、ちょうど満開を迎えたソメイヨシノで埋め尽くされていた。

 私たちは、踵を返して代官町通りへと入った。この通りには、ソメイヨシノとは違う何種類もの桜が植えられており、それまでとは全く異なる雰囲気を醸し出していた。その堤からも、お目当ての千鳥ヶ淵は望める。しかし、残念なことに、首都高の無粋な橋が濠を横切り、優雅な風景を台無しにしている。

 人波を掻き分けかきわけ、やっと千鳥ヶ淵のメインスポットまでたどりついた。頭上の花々、眼下の緑色に染まったお濠、そしてその向い側の土手にもピンクの群落が広がっている。満開の桜たちは、いまにも水面に着いてしまうのではないかと思うほど、枝を大きくたわませている。

 このお濠、江戸城拡張の際、局沢川と呼ばれていた川を、半蔵門と田安門の土橋でせき止めて作られた。千鳥ヶ淵半蔵門濠は、かつては一つの濠だったが、代官町通りを建設する際、中間点を埋められて別々になった。その片方の濠は、千鳥が羽を広げているような形から、千鳥ヶ淵と名づけられたという。

 1898年、当時の駐日英国大使の指示で、大使館の庭に桜が植えられた。それがきっかけで、周辺でも少しずつ植樹数が増え、昭和30年代と60年代にはとくに多く植えられたという。千鳥ヶ淵に260本、周辺を加えると千本のソメイヨシノとオオヤマザクラが植えられているという。
 

 皇居のお濠周辺を華やかに彩る桜を堪能した私たちは、隣接する靖国神社へと足を伸ばした。ここは、気象庁開花宣言の目安とする標準木があることでも有名である。お堀端とは一味違った雰囲気に浸りながら拝殿へと進んだ。いつもの神式でお参りを済ませ、桜並木の通りを市ヶ谷駅へと向かった。
 

 飯田橋から四谷へと続く駅前の堤も、満開の桜の花で覆い尽くされていた。外濠と中央線の線路が、桜との絶妙なコントラストを織なしている。樹下では、すでにシートが敷き詰められ、夜桜見物の準備が整えられているようだ。

 地下鉄の半蔵門駅からJRの市ヶ谷駅まで、私たちが歩いた道々では、結局桜が途切れることはなかった。桜は、もう当分見たくない。
(2015年4月1日)