立山黒部アルペンルート

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[エッセイ 399]
立山黒部アルペンルート

 2000年9月24日、高橋尚子さんがシドニーオリンピックで女子マラソンを競っているとき、私たちは立山に向かう富山地方鉄道の車内にいた。彼女の優勝は、他の乗客の携帯ラジオで知った。この季節になると、あのときの体験を書いておかなければと思いつつ、いつの間にか14年も経ってしまった。

 電車の終点、立山駅からケーブルカーで美女平に上がった。ここからは、高原バスで標高2,450メートルの室堂を目指す。しかし、高さ20メートルにも及ぶという雪の壁はすでに解けてない。立山の雄姿も、雨雲に遮られて見ることはできない。そのかわり、ミクリガ池を散策することはできた。途中で雷鳥に出会えるかもしれないと期待もしたが、さすがにそれは叶わなかった。

 室堂からは、立山の中腹を貫く長さ3.6キロのトンネルを立山トンネルトロリーバスで抜けた。その終点、大観峰立山ロープウェイに乗り換え黒部平まで下る。日本最長、1,700メートルの間に支柱は一本もない。紅葉の時期なら最高の景観が楽しめるはずだが、このとき雲はまだ垂れこめたままだった。

 黒部平で全線トンネルの黒部ケーブルカーに乗り換え黒部ダムに向かう。そこにはアーチ形の堰堤が伸びていた。このダムの高さは186メートル、いまも日本一である。雨上りのその上を、反対側に向かって徒歩で渡る。最後の乗り物関電トロリーバスで、赤沢岳をくりぬいたトンネルを抜け扇沢に向かった。

 通り抜けてきたのは、富山県立山駅と長野県の扇沢駅の間、東西約25キロを6種類の乗り物で結ぶアルペンルートである。もとは、立山駅―黒部湖間は山岳観光や登山客のために、黒部ダム扇沢駅間は関西電力黒部川第四発電所を建設するためのものだった。両方を合体させ、大規模な山岳観光ルートとして全線開通させたのは1971年6月1日だった。ちなみに、旅行者の玄関口となるJRとは、富山駅富山地鉄と、信濃大町駅でバスとそれぞれ接続されている。どちらから行くのも自由だが、全線通しの運賃は10,850円である。

 このルートの目玉の一つ“黒四ダム”は、513億円の費用と7年の歳月をかけて1963年に完成した。殉職者171人を出す難工事だったという。その話は、「黒部の太陽」として三船、石原両スターの共演で映画化され大ヒットした。2000年には、NHKのプロジェクトXでも取り上げられ、あらためて感動を呼んだ。この番組の主題歌である「地上の星」は、2002年暮れの“紅白”で中島みゆきさん本人が出演し、黒四のトンネルから生中継され話題ともなった。

 2年前、スイス旅行をする機会があったが、ここは規模においても中身の濃さにおいても彼の地に勝るとも劣ることのない立派な山岳観光ルートである。開業間近の北陸新幹線とともに、大切に育てていってもらいたいものだ。
(2014年6月20日)