時速320キロの世界

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[エッセイ 398]
時速320キロの世界

 時速320キロ、世界最速の新幹線を初めて体験した。みちのく花見旅では、往路は七割方、復路は全行程で東北新幹線を利用した。こんなに高速なのに、揺れはほとんど感じさせない。当然とはいえ、シートベルトは不要、車内の往来は自由、車や飛行機に比べなんとも気ままでくつろげる雰囲気ではある。

 東北新幹線はやぶさ」は、昨年の春以来、フランスのTGVに並ぶ世界最高の時速320キロで営業運転されている。これによって、東京―新青森間、713キロが最短2時間59分で結ばれている。

 世界最速といえば、2008年に開業した中国の新幹線が時速350キロで営業運転していた。しかし、3年前の追突事故をきっかけに300キロに引き下げられている。それにしても、あの事故処理にはびっくりである。臭いものに蓋をしようとしたのだろうか、事故車両を土に埋めようとしていたのだ。

 我が国最速のはやぶさに使われている車両E5系は、高速運転可能な宇都宮―盛岡間では時速320キロで営業運転している。連結車両数も多い。東京―盛岡間をシャトル運行しているはやぶさは、東海道新幹線の最長16両より長い17両編成である。座席の足元も広くなった。座席の前後の間隔は、普通車の場合、従来のE2系の980ミリから1040ミリに広げられている。

 はやぶさに乗って、改めて時代を感じさせられたものが二つある。その一つは、グランクラスというグリーン車のさらに上のクラスの車両が連結されていることだ。庶民には縁遠い話ではあるが、それなりに需要があるから連結されているはずである。そしていま一つは、禁煙が徹底されていることだ。電車に乗ったら最後、目的地までたばこを吸えるチャンスはまったくない。

 世界に初めて“新幹線”が登場したのは1964年、東京オリンピックのときである。時速210キロ、所要時間は東京―新大阪間を4時間でスタートし、翌年には3時間10分に短縮された。これをきっかけに、列車高速化の流れが加速され、1981年にはフランスでTGVが誕生した。

 鉄道のスピードアップ競争はいまも続けられている。鉄軌道・鉄車輪方式での世界最速記録は、TGVの時速574.8キロで、日本の新幹線は時速443キロである。もちろん、試運転時において限界まで挑戦した結果である。ちなみに、リニア方式では日本の581キロが世界最速記録である。

 はやぶさの乗車賃は、運賃と料金合わせて通常時で17,350円である。街中から空港までの費用を勘案しても、飛行機と比べて決して安くはない。あとは、利用者が、利便性と快適性をどのような視点でとらえるかである。どちらにせよ、私たちの選択肢が広がってきたことだけは確かである。
(2014年6月7日)