アシナガバチ

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[エッセイ 377]
アシナガバチ

 車を使おうとしたら、車庫の周りを蜂が数匹飛び回っていた。怖いなあと思いながら車に乗り込んだ。ふと、フロントガラス越しに上方を見上げると、アシナガバチ(脚長蜂)が車庫の天井に巣をつくっている最中だった。車を使うためには、避けて通れない通路の真上である。

 そういえば、十年くらい前にも同じ所で同じことがあった。今回も、庭木の消毒に使う噴霧器を使うことにした。薬液は樹木の2倍程度に濃くした。首をすくめて、蜂たちの下をそーっと通り抜け、すばやく車に乗り込んだ。右の窓を少しだけ開け、その隙間から噴霧器の先端を差し出し造営中の巣に向けた。薬液がまとまって飛ぶよう、ノズルはあらかじめ調整しておいた。

 噴射した薬液はまっすぐ蜂の巣に向かって飛んでいった。彼らのうちの1匹はすぐ飛び去ったが、残りの数匹は真下に落ちた。闘いは数十秒で終わった。巣をたたき落とし、その日はそのままにしておいた。翌日それを片づけに行ったら、籠っていた幼虫たちがはい出し、落ちた巣のまわりで死んでいた。

 このアシナガバチ、実はスズメバチの仲間だ。日本にはフタモンアシナガバチセグロアシナガバチなど数種類がいる。軒下などに巣を作るのはセグロアシナガバチで、わが家にいたのもこの種類であろう。アシナガバチスズメバチ同様肉食性だが、性格はおとなしく飛び方も比較的ゆるやかである。

 蜂を見かけると、刺されるのではないかという恐怖感にとらわれることがある。しかし、アシナガバチは、巣を強く刺激しない限り襲ってくることはまずないそうだ。この種類に限ったことではないが、もし蜂に刺されたら、2度目はアナフィラキシーショックによる死亡の危険性があるという。これは同一種類の蜂に刺されたときのことだそうだが、気をつけるに越したことはない。

 アシナガバチは、4~5月に女王蜂が単独で巣作りを始める。巣は、6~7月に急激に大きくなり、8~9月に最大となる。この時期に巣を刺激すると刺されることが多い。交尾は9~10月、巣の近くの日だまりで、多数の雄蜂と数匹の雌蜂が群がって行われる。交尾が終わると雄は死ぬ。雌は、気温の低下とともに木の割れ目や石垣の隙間などで越冬の準備に入る。

 蜂は大きく分けて益虫と害虫に分けることができる。益虫は人間と共生するミツバチであり、害虫は危険極まりないスズメバチと位置付けることができよう。アシナガバチは、農作物や庭木につく害虫を餌とし、その一方で花粉の媒介もするなど本来は益虫の部類に入る。

 しかし、軒下に巣を作るなど人間との距離があまりにも近いため、ついつい危険な害虫とみなされてしまう。なにかうまい共生の道はないものだろうか。
(2013年9月1日)

(注)アナフィラキシーとミツバチについては、独立の記事として過去に投稿したことがあります。このまま遡って、ぜひご参照ください。
  2007,10,8 エッセイ186「アナフィラキシー
  2010,4,18 エッセイ279「ミツバチ」