ミツバチ

イメージ 1

[エッセイ 279]
ミツバチ

 数年前から、実家の床下にミツバチがすみついていた。帰省したとき雑草を退治しようとしても、彼らの出入りする通気口の周りだけは近寄れなかった。あるとき、殺虫剤を噴霧すれば彼らを駆除できるかもしれないと思い立った。

 彼らに襲われることもなく事は順調に運び、通気口の周りにはハチの死骸が山になった。しかし、翌日になるとまたたくさんのハチがそこから出入りしていた。暗くなって懐中電灯で照らしてみたら、そこに巨大な巣が確認できた。

 ミツバチは、大きく分けると9種類になる。蜂蜜などで人間に最もなじみの深いのがセイヨウミツバチ、そして日本に昔からいるのがトウヨウミツバチの亜種にあたるニホンミツバチである。飼いならして蜂蜜をとるにはセイヨウミツバチが最適で、ニホンミツバチはそれにはやや難点があるそうだ。

 ミツバチは、注目に値する二つの大きな特性をもっている。その一つは、いわば家畜として、また益虫としての特性である。彼らは、蜂蜜や蜂蝋あるいはロイヤルゼリーで人間生活に大きな貢献を果たしている。自然界にあっては、植物の命をつなぐために欠かせない受粉作業を受け持っている。

 いま一つは、彼らが営む高度に発達した社会生活である。彼らの最小の生活単位は、1匹の女王蜂と2~3千匹のオス蜂、それに数万匹にも上る働き蜂で構成されている。女王蜂の寿命は1~3年、この間ひたすら卵を生み続ける。最盛期には1日に2000個も生むことがあるという。オス蜂の寿命は20日~30日くらい、女王蜂と交尾をするためだけに生まれてくる。

 働き蜂は全部がメスである。寿命は季節によって大きく異なるが平均で1~2ヵ月といったところだ。彼女たちの役割は加齢とともに変わっていく。最初は巣の掃除、続いて幼虫の世話、そして3週間くらいの経験を積むと外勤となって働き蜂本来の役割に精を出すことになる。

 ミツバチは群れ全体を一つの個体と考えるのが妥当かもしれない。ハチの一匹一匹は、群れにとっては部品でしかない。彼らは、巣に危険がせまったときだけ外敵を刺す。一旦刺すと、針は自身の内臓とともに刺した相手の皮膚に残る。一生に一度の”自爆勇士”である。討ち死にしたハチの命の重さは、トカゲに切り捨てられたしっぽと同じくらいしかないのだ。

 例の実家のニホンミツバチは、在郷の友人に頼み専門業者の手も借りてなんとかうまく駆除することができた。蜂蜜の恵みもたくさん手にできた。

 ハチたちは、女王蜂に生まれたら産卵器械に、オスならタネ蜂に、メスに生まれていたら働き蜂に徹しなければならない。そしてなにかあったら組織最優先で容赦なく切り捨てられる。そんなミツバチに生まれなくて本当によかった。
(2010年4月18日)