蚊との闘い

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[エッセイ 401]
蚊との闘い

 夜中に、ブィーンという羽音とともに顔に向かって蚊が飛んできた。夢うつつのうちに、思わず手のひらでそれを叩いた。蚊がどうなったかは分からないが、自分の頬っぺただけはしたたかに叩いてしまった。そのままでは気がかりなので、電気を点けてあたりを見回してみた。しかし、蚊の姿はどこにも見当たらない。結局、寝つけないまま、起き出して電子蚊取り器をセットした。

 いまでは、室内で蚊に刺されるようなことはめったにない。アルミサッシと網戸、さらにはエアコンが普及して、蚊が屋内に入り込む隙はほとんどなくなってしまった。玄関の出入りや窓の開け閉めさえ注意すれば、蚊や蠅などの害虫から被害を受けることはなく、安心してくつろぐことができる。

 子供のころは、夏になると家中の建具が開け放たれた。少しでも風通しを良くするためである。その結果、昼間は蠅が自由に飛びまわり、夜になると蚊がわがもの顔に活動した。各家庭では、明るいうちは蠅取り紙や蠅たたきが、暗くなると蚊取り線香と蚊帳が生活必需品として活躍した。

 こんな光景に変化が現れたのは、昭和40年代に入ったあたりからである。ゴミの収集が衛生的に処理されるようになり、蠅の姿はどんどん少なくなっていった。蠅取り紙や蠅たたきは、いつのまにか伝説の生活用品になっていた。ゴキブリも数歩遅れて、いま同じような足取りをたどっている。

 それに引きかえ、蚊はいまも現役のバリバリである。実はその蚊たちと、一昨日も屋外で暗闘を繰り広げたばかりである。この日は、梅雨末期にしては雨も降らず比較的涼しかった。延び延びになっている庭の芝刈りを片付けるには好都合だった。芝刈りといっても、猫の額ほどの坪庭をバリカンで撫でる程度のことだが、それなりの労力は必要であり涼しいに越したことはない。

 庭に出ると、さっそく蚊が何匹か寄ってきた。しかしこちらは、腕や首周りの露出部分に防虫スプレーを吹きかけ、首からは防虫剤蒸散器を吊り下げて防虫ガスのバリアを張っている。おかげで、蚊は周りを飛び回ることはあっても、攻撃してくることはなかった。もちろん、刺されたときのために痒み止めの薬も用意しておいたが無用の長物に終わった。

 環境整備が進んで水溜まりが減り、消火栓が整備されるにつれて防火用水も姿を消した。ボウフラがわくような場所はどこにもないはずなのに、蚊の数はいっこうに減る様子はない。蚊たちはいったいどこからわき出てくるのだろう。もしあるとしたら、普段水の流れのない雨水桝くらいしか考えられない。

 夜は、蚊のことなど気にしないでゆっくりと休みたい。庭では、もっとフランクな格好で過ごしたい。蚊は、どうしたら撲滅することができるだろう。
(2014年7月20日)