切り干し大根

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[エッセイ 300]
切り干し大根

 今回の霧島連山新燃岳の噴火が、切り干し大根の生産にまで影響を与えているという。なんと宮崎県は、切り干し大根の生産量で全国シェアの9割を占めているそうだ。新燃岳のふもとに広がる小林市と高原町は、その主要な産地の一つだという。

 切り干し用の大根は、種が蒔かれるのは9月ごろ、12月中旬から3月初めにかけて順次収穫される。洗浄された大根は機械でスライスされ、陽光のもとで霧島おろしと呼ばれる冬の乾燥した風にさらされる。いま、その霧島連山から大量の火山灰が降ってきて、関係者は途方に暮れているという。

 ある大手スーパーは、その窮状を救うため、切り干し用に作付けされていた大根1万本を買い上げた。普通の大根の2倍はあるという大きな大根だが、味は普通のものと変わらないそうだ。それを1本98円で、2月16日から九州各地の自社の店舗で特売を始めたという。

 先ごろ、その切り干し大根をわが家でも作ってみた。もちろん初体験であり、今回の新燃岳の噴火とは全く関係がない。正月明け、近所のスーパーで立派な大根を見つけ購入した。その翌早朝、母の急逝を知らされた。大きな大根は、手をつけられることなく冷蔵庫で1週間を過ごすことになった。

 実家に帰った私たちの元に、ご近所から数本の大根が届いた。初七日が終わっても、まだ1本分が残ったままになっていた。もったいないので、ご近所からいただいたミカンなどとともに自宅あて宅急便で送った。冷蔵庫には2本の大型の大根が揃った。

 スライスした大根は、広げると新聞4ページ分にもなった。昼間はベランダに、夜は座卓の上に広げた。少しずつ量は減り、室内にはあの独特の匂いが漂いはじめた。さいわいお天気はカラカラ続き、夜も暖房効果で乾燥は順調に進んだ。5日くらいで立派な切り干し大根ができあがった。水で戻し、生揚げと煮つけた。歯ごたえがたまらない。あの懐かしい味が口中に広がってきた。

 子供のころ、スノコに並べられた切り干し大根はどこの庭先でも見かけられた。大根は冬が旬、この季節は気温が低く空気は乾燥して、お天気も安定しているので切り干し大根作りにはもってこいである。加工品は生に比べ、カルシウムは15倍、鉄分は32倍、ビタミンB1、B2は10倍にもなるそうだ。

 水で戻すときは、10分から15分くらいが最適、それ以上浸けておくと栄養分が抜けてしまうという。酢の物、和え物、和・洋・中のサラダ、煮物、炒め物、お浸し、そして中華まんの具など、意外と用途も広い。

 この機会に、もう一度このクラシックな食材を見直してみてはどうだろう。
(2011年2月19日)