知床半島

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[エッセイ 209](新作)
知床半島
 
 アムール川で生まれたシャーベット状の氷は、やがて流氷となってオホーツク海を渡りここ知床半島にもやってくる。流氷は、自然の栄養分をたっぷりと含み、たくさんのプランクトンたちもつれてくる。

 えさの豊富な海には小さな魚が大発生する。それをねらって大きな魚が集まる。トドやワシたちもその後を追ってくる。川に上ったサケやマスは、ヒグマやワシの餌食にされる。森に運ばれ食べ残された魚は、貴重な肥料となって木々を育てる。こうして、北の地の果てに豊な食物連鎖が確立した。

 険しい地形と厳しい気候は人を寄せ付けない。知床の自然は、人に踏み荒らされることなく護り通された。海と陸地が一体となった豊な生態系は、貴重な財産とみなされ、2005年7月にはユネスコ世界自然遺産に登録された。

 半島の背骨部分は、1500メートル級の山々が連峰を形成している。その凛々しい姿は、自然の懐の深さと厳しさを訴えているようでもある。連峰の先端は絶壁となってオホーツク海に落ち込む。切り立つ断崖絶壁、奇妙な形の海食洞、そして海に注ぐ滝の数々は、船で訪れる観光客を飽きさせることはない。

 私たちのバスは、オホーツク海側からその半島に入った。最初に立ち寄ったのがオシンコシンの滝である。日本の滝百選にも選ばれたという。天から落ちてくるような、落差80メートルもある立派な滝であった。

 知床半島は、その中央部に半島横断道があり夏季半年間は車で半周できる。私たちの最終目的地は、オホーツク海沿いをさらに8キロあまり進んだ知床五湖というところである。小さな湖が5つ散在する景勝の地である。私たちは、そのうちの2つの湖を散策することになっていた。

 ところが、直前になって現地にヒグマが出没したという情報が入ってきた。サファリパークのように、バスの車内から見ればいいと思っていたが、連絡道路そのものが閉鎖になるという。やむなく、その手前にある「知床自然センター」で、知床の自然に関するビデオを見てお茶を濁すことになった。

 それにしても、途中までではあるが現地の国道はかなり立派である。自然が売り物の尾瀬上高地では、現地までの交通手段は規制だらけである。自然保護の究極の手段が人を入れないことにあるとすれば、知床に入る方法ももっと不便にしていいのではなかろうか。

 この日、私たちが最初に訪れたのは摩周湖である。ここは、霧で有名なだけあってなにも見えないこともしょっちゅうだそうだ。それでも、観光客はそういうものだろうとたいして不満な様子も見せないという。まして、ヒグマが警備する知床にあっては、入れないのが当り前くらいにすべきではなかろうか。
(2008年5月31日)

写真 上:知床自然センターからみた知床連山
    下:オシンコシンの滝
    3枚目:摩周湖