黄砂

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[エッセイ 236](新作)
黄砂

 林を抜けると、南にむけて一気に視界が開ける。お彼岸の眩しい陽光を期待していたが、日差しは意外に柔らかく、逆光に望む遠景のシルエットは霞んで見える。春霞というと聞こえはいいが、これは単なる黄砂でしかない。せっかくここまで足を伸ばしたのに、これでは花粉症を悪化させるだけである。

 空中を漂う黄色い砂は、視界を遮って交通機関の安全運航に大きな障害となる。地上に降りた微粒子は、車のボンネットやフロントガラスに醜く堆積する。外に干した洗濯物は洗い直しを余儀なくされるだろう。やっと咲きそろったハクモクレンも、そのけがれのない白い色を汚されてしまうかもしれない。

 黄砂は、花粉と共謀してアレルギー症状を悪化させる原因となる。肺にまで達するという微粒子は、呼吸器に大きなダメージを与えるかもしれない。雑菌やウイルスが付着していることもあるという砂粒は、得体の知れない病気の原因となるかもしれない。一説によると、黄砂による日本の経済的損失は、年間7000億円にも達するという。

 黄砂は、中国の黄土高原やゴビ砂漠、さらにはその西のタクラマカン砂漠の乾燥地帯で生まれるという。その面積は、この3つの地方だけで日本の国土の3倍に達するという。その乾燥地帯にある砂が、砂嵐に巻き上げられ気流に乗って各地に運ばれる。大きい粒は比較的近いところに、目に見えないような小さなものは偏西風に乗って日本にも運ばれてくる。

 黄砂は、一年中発生しているが、この乾燥地帯の地表の状態と気象条件から、春が一番多いといわれている。中国から飛んでくるのは黄砂だけではない。中国は、経済の目覚ましい発展とともに、大気汚染も年々深刻になっている。その余波が、日本にも及びはじめているのは周知のとおりである。

 人口が日本の十倍を超える中国には、自動車の保有台数においても日本の十倍を超える日が来るであろう。大気汚染もそれに比例し、その大波が日本に押し寄せてくることになるだろう。大気汚染と砂漠化の悪循環は、黄砂の発生を加速させ、それがまたいっそう日本を苦しめることになるはずである。

 いったい、黄砂を防ぐ手立てはあるのだろうか。理屈からいけば、砂漠や乾燥地帯にふたをすればすむことである。巨大なシートでそこを覆うもよし、コンクリートで舗装してしまうのも悪くはない。究極の方法は、樹木でそこを覆いつくしてしまうことである。

 中国の降雨技術は世界最先端にあると聞く。その技術でどんどん雨を降らせ、この地方の緑化を進めていけばいい。当面は、木を一本一本植えていく地道な努力が求められる。そこには、日本の出番もたくさんあるはずである。
(2009年3月18日)