会社乗っ取り劇

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[エッセイ 91](既発表 4年前の作品)
会社乗っ取り劇

 この6週間あまり、ライブドアニッポン放送・フジテレビ連合の仁義なき戦いが続いている。こうした会社乗っ取り劇は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて華やかな話題をふりまいてきた。乗っ取り屋というプロ集団がいて、黒幕にあやつられながら経済界の裏側で暗躍する。いま、そうしたドラマが
電波に乗ってワイドショー的に再現されている。

 フジテレビは1月17日、親会社であるニッポン放送の株式を公開買い付け(TOB)すると発表した。両社の親子関係のねじれを解消するためだという。2月8日、今度はライブドアが、ニッポン放送の株式を立会外取引で35パーセント分取得したと発表した。そのねらいは、同社を子会社化し、フジサンケイグループを間接的に支配しようとするものであった。以降、両陣営の緊迫した攻防へと発展していった。

 この騒動が始まる前の3社の戦力を、連結ベースの総資産で比較してみると、ライブドア1100億円、ニッポン放送2100億円、そしてフジテレビが4800億円と推定される。まさに、小が大を呑みこもうとする構図である。風車に挑むドンキホーテか、外資に踊らされるピエロか、はたまた若き革命家か。

 今回の騒動では、会社乗っ取りということが大きくクローズアップされ、報道合戦もその一点に集中している。しかし、会社は本来株主のものであり、経営陣や従業員はその株主に雇われているにすぎない。株主が自分の責任と権利の持ち分を移動させることになんの不都合もない。

 今回の事例も、一私企業の単なる株主の移動に過ぎず、もともと乗っ取りという概念は存在しなかったことになる。たしかに、放送事業という影響の大きい業界の話ではあるが、フジテレビの番組ばかり見ているわけではないし、いやなら見なければすむ話である。ましてニッポン放送など、ここ何十年も聴いたことがない。

 会社買収を仕掛けたライブドアは、この6年間で33社を買収し、うち31社を子会社化している。堀江氏は、メディアを変革させITとの融合を目指すと豪語しているが、野心ばかりが見え隠れして改革の具体的な姿は見えてこない。一方の受けて立つ側は、現状維持にこだわり改革への積極的な姿勢がまったく見られない。水も淀めば腐臭を放つ。もし変革の外圧を嫌うなら、自ら進んでその努力を傾注すべきである。

 今回のドラマは、太平の安穏をむさぼりたい守旧派と、野望に満ちた目立ちたがりや集団の泥試合としか映らない。決着までにはまだいくつかのエピソードが楽しめそうだが、利用者や視聴者の存在を忘れた醜い争いは、いずれ大衆の支持を失い社会から忘れられた存在になるであろう。
(2005年3月19日)