もらい事故

[エッセイ 674]

もらい事故

 

 近くの老人福祉施設でのことである。あるサークルで活動中に、係員からお呼び出しがかかった。なんでも、駐車場で私の車にぶつけた人がおり、警察官が来て現場検証中なので立ち会って欲しいということだった。この日は、別の部屋で人気の高いサークル活動が行われており、早朝から駐車場は大変混み合っていた。そのため、現場は50メートル離れた別の狭い臨時駐車場だった。

 

 行ってみると、警察官が2名と事故の当事者と名乗るおばあちゃんがいた。私の車には、右後方のバンパーに大きな擦り傷がついていた。相手の車がバックでこちらの車を擦ったのだそうだ。なるほど、その車にも同じような傷跡があった。現場で、警察官と当事者双方が確認してサインしあい、あとは保険会社との話し合いに入ることになった。

 

 そのとき、最初に私の頭をよぎったのは、その車が誰のものかよく分かったなということだった。しかし、そんなことは、警察官が車のナンバーをもとに調べれば、持ち主くらいすぐわかるにきまっている。それも、特定の場所なので、持ち主の所在すらも簡単に突き止めることができる。

 

 もう一つ、事故を起こした本人がよく名乗り出てくれたなということだった。実は、もうずいぶん前になるが、スーパーの駐車場で右ドアを擦られたあとがあり、結局泣き寝入りせざるをえなかった経験があるからだ。小さな傷だが、修理費が高額になるということで、仕方なくいまもそのまま乗り続けている。

 

 しかし、今回の場合は、加害者の車もかなりの傷を負っており、それを保険で修理しようとすれば警察官の立ち会いと証明が必要になる。そうなると、当然相手の立ち会いも必要になってくる。名乗り出なければ本人が困るのであって、特別に“善意”があってということではなかったのかもしれない。

 

 保険会社や修理をお願いする会社とも連絡がついたので、帰宅後すぐにその手続きに入った。2~3日なら車がなくても過ごせると思ったが、保険会社も修理担当の会社も代車を用意するという。なんのことはない、車を引き取ったり納車したりするときに代車があれば一人の担当者で済むということだった。余計な遠慮などするものではないようだ。

 

 あれから8日が経った。あのぶつけられた愛車が、ぴかぴかに洗車されて戻ってきた。擦られた傷は、跡形もなくきれいに修復されていた。もちろん加害者不明の右ドアの擦り傷はそのままの状態で・・。来宅した修理会社の担当者から注意があった。“タイヤの空気圧が下がり、バースト寸前でしたよ”と。

 

 そういえば、最近のガソリンの給油はセルフなので、自分自身で注意しないかぎり誰も面倒を見てくれない。危うく加害者にさえなりかねないところだった。

                      (2023年12月1日 藤原吉弘)