DXとみんなのしあわせ

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f:id:yf-fujiwara:20211028141717j:plain[エッセイ 609]

DXとみんなのしあわせ

 

 最近、DXという文字がよく目につく。DXとはdigital transformationの略で、デラックスのことではなさそうだ。エッ?略称ならDTになるのでは?それだと、“童貞”と勘違いされるのでTをXに変えた??実は、DTと略される用語は山ほどある。そこで、transをxと略す英語圏の習慣をもとにdigital x-formationと読み替え、さらにはDXと略したようだ。DXとは、「先端的なデジタル技術の活用を通して、高度な将来市場においても新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革すること」だそうだ。

 

 なんで、こんなにDXがクローズアップされるようになったのだろう。そのことを考える前に、まずは私自身の実体験を振り返ってみよう。――ある日、運転免許の更新手続きに出かけた。事前に届いていた案内はがきを持って、警察署の隣にある建物でそのことを申し出た。「何か変更になったところはありませんか?」「昨年の町村合併で、本籍地の町名が変わりました」「戸籍抄本かなにか、証明になるようなものをお持ちですか?」「そちらで分るはずではないですか?」「こちらでは分りません。書類がないと手続きはできません」。そして、一番奥に座っている立派な人が「市民センターに行けば、本籍地の入った住民票がカンタンにもらえますよ!」。(エッセイ88「ある行政サービス」2005年2月)

 

 ここには、行政組織の横の連携など全く見られない。縦割り組織とセクショナリズム、書類とハンコが幅を利かすアナログ行政の典型的な事例である。そんなとき、「マイナンバー」制度がスタートした。これで、アナログ行政から抜け出し、セクショナリズムも改善されるのではないかと期待したものだ。しかし、せっかく作ったカードは、一度も使われないまま期限切れを迎えた。それでも、すぐ市役所で更新手続きを済ませた。それにしても、マイナンバーカードの全国普及率は9月現在で37.6%だという。100%でなければ十分には機能しないはずだし、それを利用して変革を遂げようという気などどこにも見られない。

 

 日本の行政などそんなものだろう。国連の電子政府ランキングによると、国別で日本は14位だそうだ。コロナ禍支援策のもたつきぶりをみても、その情けない状態がよく理解できる。デジタル庁まで作ってDXの推進をしようとしても、その気がなければ前に進むわけがない。行政という組織には外部との競争がなく、逆に下手に合理化すれば自分たちの仕事を奪われかねないのだからだ。

 

 民間企業なら世界中が競争相手で、DXによる組織の強化を急がなければ敗者となってしまう。実は行政組織だって同じことなのだ。それを怠れば、日本の国そのものが世界から取り残されてしまう。安全保障は軍事だけにかぎらない。DXは国の存亡はもとより、国民一人ひとりの幸せにも直結したテーマである。

                     (2021年10月28日 藤原吉弘)