ある行政サービス

[エッセイ 88] (既発表 1年前の作品)
ある行政サービス

 先日、運転免許の更新手続きに行った。事前に届いていた案内はがきを持って、警察署の隣にある建物で更新手続きを申し出た。

 「何か変更になったところはありませんか?」「昨年の町村合併で、本籍地の町名が変わりました」「戸籍抄本かなにか、証明になるようなものをお持ちですか?」「そちらで分るはずではないですか?」「こちらでは分りません。書類がないと手続きできません」。そして、一番奥に座っている立派な人が「市民センターに行けば、本籍地の入った住民票がカンタンにもらえますよ!」。

 ヤドリギのようなこの外郭団体で、これ以上の押し問答は無用である。一旦、自宅に引き返すことにした。本籍地の役場から通知がきていたのを思い出したからである。その書類には、「本籍の変更について(お知らせ)」という表題がついていたが公印省略とも書かれていた。これを持って行っても、「印がないものは・・」といわれかねない。

 結局、印鑑を持って市民センターに出向くことにした。多少興奮気味に事情を説明したところ、すぐに本籍地入りの住民票を発行してくれた。どうにも気持ちが治まらないのでまだぶつぶつ言っていたら、「あのう。手数料は3百円ですが」という返事が返ってきた。

 私は、数年前から「筆○○」という年賀状ソフトを使っている。名簿に住所を打ち込むとき、郵便番号を入力して「変換」をクリックすると、県名以下町名まで瞬時に表示される。あとは番地を打ち込むだけで完了である。住基ネットが整備された今日、警察署が本籍地の町名変更を確認するくらいワンタッチでやれるはずである。一般社会では、旧い住所を打ち込んだら、新しいものに自動的に変換してくれるシステムを構築するくらい常識である。

 情報のプロである警察が、仲間の役所が正式に発表した情報をなぜ信用しないのだろう。なぜ活用しないのだろう。町村合併や住居表示の変更は、住民の意向を反映してはいるが、本来、国の方針を受けて役所が勝手にやったことである。なぜ一個人が、その役所の仲間にわざわざ手間ひまかけて証明しなければならないのだろう。

 例の外郭団体では、警察から言われていますのでという説明しかできなかった。警察では、言われてみればそうかもしれないがそういう決まりになっているのでということをくり返すばかりである。ついには、みなさんにそうしてもらっていますので、と今までのやり方を押し通そうとする。

 このようなやり方を、なぜ疑問に思わないのか。疑問に思ったとしたら、なぜ次の行動を起こそうとしないのか。なぜ自分本位にしか、なぜ所属する組織本位にしかものを考えようとしないのか。公僕を自任する「官」は、本来もっと賢く、もっと「民」のことを親身になって考えてくれるはずである。
(2005年2月19日)