住宅建設の槌音

イメージ 1

[エッセイ 449]
宅建設の槌音

 今日も、大工さんの打ち付ける金槌の音がにぎやかに伝わってくる。我が家からその建設現場までは、地形の関係から大きく迂回しなければならないが、直線距離にすればわずか5~60メートルしかない。間に民家が2軒あるだけで、後は道路と小川で占められ、ほとんどは素通しである。音が直に伝わってきても何の不思議はない。しかし、なぜかそれほど不快には思えない。建設の槌音は、人を浮きうきさせる前向きの音なのだろうか。

 ここは、かつてはちょっとした規模の畑だった。別の言い方をすれば、近隣に最後に残された緑地でありフロンティアでもあった。高齢のおじいさんが、長年野菜作りに精を出していた。ところが、いつの間にかそのおじいさんは姿を見せなくなり、そこは背の高い草に覆われた荒れ地になってしまった。

 ある日、そのそばに看板が立てられた。12区画に区切られた住宅地になるという。しばらくして造成工事が始まり、あっという間に宅地が出来上がった。分譲地として販売されるのかと思っていたら、家が立てられ始めた。噂では分譲住宅になるのだという。そんなとき、新聞に折り込みチラシが入った。代表的なものを見てみよう。土地:南面道路126平米、建物:木造二階建て延べ100平米、分譲価額:3,780万円となっていた。

 ちょっと手狭な感じもしないではないが、最近の売れごろの規模のようだ。ただ、その分譲地の平面図を見て驚いた。道路は袋小路で、道路面積が極端に少ない。私の推測では、用地全体の面積は1,934平米、そのうち宅地面積が1,564平米、残り370平米が道路用地となっている。用地全体に占める道路の比率は19.1パーセントと極端に狭い。ただ一つ救いなのは、この分譲地の二方は緑地、残り一方と半分は基準法定外ながら市道であるということだ。

 あのチラシを見てもう一つ驚いたことがある。あの時点では、まだ建物は柱一本立てられていなかったのに半分の6戸が売約済みになっていたのだ。まるでマンションの青空売りと同じである。このご時世にあって景気のいい話であり、近隣の住民にとっては一面うれしい話でもある。

 なんせ、私たちの街は高齢化が進み、子供の姿を見かけることが少なくなっている。そうした中で、新しい家が立てられれば平均年齢は一気に下がり、再び活気ある街になると期待されるからだ。一方、全国的には、空き家の増加が大きな社会問題になっている。こうして、住宅建設の槌音が響けば、その分だけ空き家が増えることになるのだ。

 宅地造成中の重機の騒音は結構うるさかった。しかし、こうして戸建て住宅の柱が次々と立てられていくと、その槌音はむしろ心地よく聞こえてくる。
(2016年9月4日)