所得税の確定申告

[エッセイ 47] (既発表 2年前の作品)
所得税の確定申告

 年金生活に入って以来、税務署から所得税の確定申告書の用紙が送られてくるようになった。その用紙には、こちらの住所・氏名や納税者番号と思しき番号まですでにプリントされている。表書きには、申告書は自分で書いて郵便で送ってくださいと注釈がついている。

 私は、「所得税の確定申告の手引き」という説明書に従って申告書類を作成していった。
 
 課税の対象となる所得は、大半が年金であるのでその金額に0、75を掛け、そこから定額の37万5千円を差し引いたものとなる。この他に若干の雑収入があるので、その収入から必要経費を差し引いたものをその他の所得として課税対象金額に上乗せする。
 
 必要経費の計算は、「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の適用を受ける方へ」というなんとも長ったらしい特例があって、最大で65万円まで経費とみなすことができる。

 課税の対象となる所得は、これらの合計から社会保険などの保険料と配偶者控除や扶養控除が引かれさらに基礎控除として一律38万円が控除される。災害にあった人や高額の医療費を払った人は、それらの一部が控除され課税対象所得金額が導き出される。私の場合は、事実上年金生活者といっていい状態なので、課税対象所得は総収入の30パーセントに満たない水準となる。

 税金の計算段階では、この所得の水準では税率は10パーセント、定率減税はそれの20パーセントが適用される。定率減税後の税率は差し引き8パーセントということになる。長ったらしい特例の一律65万円の経費を差し引いた総収入に対する税率は2、3パーセントということになった。

 年金生活者に所得税をかけること自体矛盾を感じないわけにはいかないが、社会保険料として課税対象から控除されていたものに今あらためて課税されると考えれば納得がいかないこともない。現役時代、口々に重税を嘆いていたが、所得税の総額が10万円に満たない今となってはむしろ一抹の寂しささえ感じる。これからは、住民税の重税感とその使い方に焦点をあてて考えていきたい。

 税金とは、本来権力者が自分の立場を維持するための方便として編み出したものであり、その権力によって有無を言わせず取り立てるものではなかろうか。それを自己申告制にもっていくのは、国民に税金の意義と仕組みを納得させようとする一種の狡猾な懐柔策なのかもしれない。

 この制度は、役所の手間を省く最善の策でもあるが、下手をすると国民からの強烈な突き上げを招きかねない両刃の刃の危険性を内在している。重税の現役時代には源泉徴収によって一方的に取り立て、重税感の薄れた年金生活者には自己申告制をとらせるとは、役所もなかなかやるもんだ。
(2004年2月13日)