コウノトリ

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[エッセイ 181](新作)
コウノトリ
 
 先月末、野生として巣立っていったコウノトリの幼鳥が元気に育っているという。あれから3週間あまり、足輪をつけるために一時的に捕獲された。体重は4、25キログラム、多少成長が遅れているようだが健康に問題はないそうだ。

 コウノトリは、ツルによく似た大型の水鳥である。成鳥は、全長が約110センチ、翼を広げた時の幅は200センチにもなる。ツルは一声鳴くが、コウノトリは鳴くことができない。代わりに、くちばしをカタカタ打ち鳴らすクラッタリングということをやる。ツルは木に止まらないが、彼らは木にも止まる。
 
 コウノトリは、中国東部に2,000~3,000羽が生息している。中国東北部で繁殖し、中国南部で越冬する。日本の固有種は留鳥であったが、野生のものは1971年に絶滅した。ヨーロッパやアフリカ北部には、近縁種のシュバシコウという鳥が85万羽くらいいるという。「赤ちゃんを運んでくる」という伝説の鳥は、実はこの種類のことだそうだ。

 日本でコウノトリが絶滅寸前になっていた1965年、野生の鳥を捕獲して人工繁殖に踏み出すことになった。このため、最後の生息地となった兵庫県豊岡市に「コウノトリ飼育場」を設け、一つがいを捕獲してそれを試みたがうまくいかなかった。そして1986年、日本原産最後の一羽がそこで死んでしまった。

 コウノトリ飼育場(現兵庫県立コウノトリの郷公園)では、その前年の1985年に当時のソ連から幼鳥6羽を譲り受け、4年後に人工繁殖に成功した。

 この飼育場では、1992年にコウノトリの野生復帰計画を開始し、2005年に5羽の放鳥に踏み切った。翌2006年には2個の産卵も確認されたが孵化には至らなかった。そして今年の4月、新たに2個の産卵が確認された。そのうちの1個が5月20日に孵化し、7月31日ついに大空に舞った。

 この成功は、彼らが安心して棲める自然環境の整備が大前提であった。彼らの餌となる、かえるやドジョウあるいは水生昆虫がたくさん棲む豊な水辺が必要である。休耕田の再整備によるビオトープ化や有機農法の推進といった、住民の積極的な協力があってはじめて実現できたものである。

 豊岡のコウノトリは全部で106羽になった。コウノトリに続いて佐渡のトキも107羽にまで回復し、来年には野生復帰の試みが始まるそうだ。しかし、世界全体の絶滅危惧種は、動植物合わせて16,000種あまりにも上るという。コウノトリやトキの野生復帰活動はそれの万分の一にしかあたらないが、彼らを救う地道な活動は人類の危機を救うことにもつながるのではなかろうか。
 
 コウノトリがたくさん飛ぶようになれば、連れてくる赤ちゃんの数も増え、日本の人口減少にも歯止めがかかるかもしれない。
(2007年8月27日)