イチョウ

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[エッセイ 537]
イチョウ

 

 いま、イチョウが黄金色に輝き、その足下では黄色い絨毯が分厚く広がっている。テレビでは、黄色く彩られた名高いイチョウ並木が、あたかもヨーロッパの街並みのように次々と映し出されていく。その一方、天然記念物と思しき大木が、あたりを睥睨するように田園風景の中にその存在を誇示している。


 初冬の山野は、いずこも赤や茶色に彩られていく。そんななか、イチョウの黄色には少なからず違和感を覚える。あの色は、近代的な建造物には調和しても、山野や古いお寺には不釣り合いのように思える。伝統ある神社仏閣にもイチョウはあるが、やはり東海道には松並木、日光街道には杉並木がよく似合う。


 そういえば、山水画に登場する木は、漢字では大抵一字で書き表す。松、杉、檜、そして楓などだ。そこへいくと、イチョウは、銀杏、公孫樹、あるいは鴨脚樹と2字または3字で書き表わす。ちなみに、鴨脚樹という字は、その葉っぱの形がアヒルの水かきに似ていることからそう書かれるようになったらしい。


 イチョウは、学術的にはイチョウイチョウイチョウ種だそうだ。なんと、この一種類だけで、類似の種属はまったくないという。その葉っぱから、広葉樹にみえるが特殊な針葉樹だそうだ。樹高20~30メートルに達する落葉高木である。雌雄異株。原産は中国。日本には室町後期以降に入ってきたらしい。


 イチョウは、世界最古、それも現存する唯一の樹種だそうだ。他の樹木は、すべて100万年前に絶滅したらしい。イチョウは生きている化石といわれ、レッドリストの野生絶滅危惧種に指定されているという。その割には、日本には沢山植えられて繁盛しており、長生きしている大木も多いように見受けられる。


 イチョウは、材木としては大変優れた素材だそうだ。油分を含み、水はけがよく、材質は均一で加工性に優れゆがみが出にくいという特質をもっている。一枚板のカウンターや天板はもとより、構造材や建具あるいは水回り設備に向いているという。碁盤、将棋盤にも広く利用されている。


イチョウは火に強いといわれ、火除地にはうってつけである。また、街路樹としては、樹形と黄葉時の美しさ、さらには剪定に強いことから最も多く利用されている樹種である。全国で50~60万本が植えられているという。なお、ギンナンを食用とするときは、食中毒に十分注意する必要がある。


 イチョウは、自治体や大学のシンボルとしても多く引用されている。都府県では東京、大阪そして神奈川が、大学では東大や阪大が有名である。


 この木は洋風のようだと思い込んでいたが、日本に深く根付き、意外と私たちの身近な存在になっている。イチョウ絶滅危惧種とは思えない繁盛ぶりだが、いつまた危機が訪れないとも限らない。これからも大切に見守っていきたい。
                      (2019年12月7日 藤原吉弘)