薩摩・温泉二昧(おんせんりゃんまい)

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[エッセイ 152](新作)
薩摩・温泉二昧(おんせんりゃんまい)

 霧島温泉に到着する前、バスガイドからこんな案内があった。ここの温泉は硫黄分がきついので、金製品をお湯に浸けると真っ黒くなってしまいます。お風呂に入るときは、指輪やネックレスのたぐいはすべて体から外しておいてください。これに対し、「男は、全部は無理だ」と食い下がったオヤジがいた。

 お湯は少し濁っていたが、露天風呂からの十三夜のお月様はことのほか透きとおって見えた。私はぬるめのお湯を好み、おまけにからすの行水を得意とするが、湯加減もよかったせいかずいぶん長湯をしてしまった。

 夕膳には、キビナゴの刺身と黒豚の角煮が添えられていた。さつま揚げももちろん立派に脇役を果たしている。おすすめの地ビール芋焼酎オンザロックは、五臓六腑を心地よく刺激し、薩摩の旅情をいやがうえにも盛り上げる。

 翌朝、8時にはホテルを出た。私たちの南九州ツアーは、日南観光のあと霧島温泉で一泊、霧島神宮桜島鹿児島市とまわって、二泊目は指宿(いぶすき)に宿をとることになっていた。その指宿温泉には、夕暮れ前に到着した。

 この温泉の売り物は、なんといっても「砂むし温泉」である。砂浜に仰向けに寝かされ、首から下に砂をかけてもらう。頭のあたりには、日除けのパラソルが差しかけられている。そんな光景を、誰もが一度や二度は絵はがきなどで目にしたことがあるはずだ。

 この浜には、温泉の蒸気が吹き出ており、砂は約90度に熱せられている。サウナと同じ効果があり、さらに温泉の効能も加わる。もちろん、自然の中に身を置くので、リラクゼーション効果も大きいという。私たちの初体験も、おのずから期待が高まるというものだ。

 ホテルのフロントで千円の入浴券を買い、浴場に向かった。砂浜に下りていくものと思っていたが、通された先は屋根のついたコンクリート製の砂場であった。砂は、その下を通したパイプで90度に熱せられているので、効果は自然の砂浜とまったく変わらないという。

 多少もの足りなさは残ったが、言い分どおりの効果があるとすれば、大浴場とつながっている分、入浴は何かと便利ではあった。この砂むし温泉、本土の果てというところに希少価値があるのだろうか。もし、大都市近郊で体験できるとしたら、相当繁盛すると思われる。
 
 昨夜は、鹿児島県の北端に近い霧島の山中、標高800メートルの名湯で肌を磨いた。この夜は、最果ての浜辺で体の芯までリラックスできた。本来なら、温泉三昧の旅だったといいたいところだが、二泊ではややもの足りないので、温泉二昧(りゃんまい)だったということにしておこう。
(2006年11月23日)

写真は、フェリーから見た桜島