大暑

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[エッセイ 523]
大暑

 本当に暑い。夏ってこんなに暑かったろうか。子供の頃、どうやって夏を過ごしたのだろうか。大人になってからも、エアコンのないところでどんな風に暑さをしのいできたのだろうか。そんな思いで、つい過去の記憶をたどってしまう。よくもまあ、こんな過酷な環境の中で過ごしてきたものだと感心する。そして、不思議なことに、暑かったという記憶がまったくない。

 今年は梅雨が長引き、冷夏になるのではないかと心配されていた。それが、紀伊半島沖で突然発生した台風をきっかけに、一転、暑い夏がやってきた。7月の27日から28日にかけてのことである。子供たちの夏休みに入る頃には梅雨が明け、「大暑(たいしょ)」に入っていなければならなかったので、これでやっと暦どおりの気候に追いついたことになる。

 一年を24分割した暦、二十四節気では、7月23日からの半月間を大暑と呼んでいる。暑さという字の前に大を付けるだけあって、まさに一年で一番暑い時期である。それも、「梅雨明け十日」といわれるくらい、前半から中盤にかけての10日間が暑さのピークである。

 書物によると、大暑のことを、梅雨が明け、暑さが厳しくなる。快晴が続き、気温が上がり続ける。アブラゼミがうるさく鳴き、真っ赤なサルスベリが咲き乱れる。各地でのお祭りや花火大会など、夏の風物詩が目白押しとなる。などと解説されている。まさに、大のついた暑さに、すっぽりと包まれる時期である。

 この頃の代表的な花といえば、サルスベリ、ラベンダー、ナデシコ、キキョウ、朝顔、蓮、ジャスミン、ヒマワリ、ホウセンカ、そしてオシロイバナであろう。この時期に出回る食べ物は、トウモロコシ、枝豆、夏みかん、桃、スイカ、ゴーヤなどがある。そして、子供たちのお相手となる虫といえば、クワガタやカブトムシであり、いろいろな種類のセミたちである。

 二十四節気では、節気名の前に大や小を付けたものが6種類もある。小暑の次に大暑小寒の次に大寒、そして小雪の次には大雪がくる。そんな中から「暑中」という言葉も生まれた。これは小暑大暑の1カ月間をひっくるめて指し、暑中見舞いはこの期間内に送るのが習わしとされている。

 それにしても、こんな暑い時期にオリンピックとは正気の沙汰とは思えない。来年7月24日から8月9日までの17日間、ちょうど暑さのピーク大暑と重なる。わけても、8月2日の女子、8月9日の男子のマラソンはまさに殺人競技である。やる方も、応援する方も相当の覚悟をもって臨まなければなるまい。

 このところ、熱中症で亡くなった人のニュースが跡を絶たない。来年の夏は、せめてマラソン競技のある日だけでも涼しくなることを祈りたいものだ。
(2019年8月3日)