夏至

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[エッセイ 559]
夏至

 6月21日は夏至にあたる。北半球では、昼間が一年で一番長い日、そして太陽が一番近くにある日である。この日は、月齢の新月にも当たっている。さらには、6月の第3日曜日であることから父の日でもある。今年の夏至の日には、特別な偶然が二つも加わり、さらには部分日食まで見られるという。まさに、一生に一度出会えるかどうかさえ分からないほどの貴重な日となった。


 夏至の日は、太陽が一番近くにあってギラギラと照りつけ、理屈の上では一年で一番暑い日のはずである。朝早くから明るくなり、なかなか暗くならない一年で一番昼間の長い日でもある。こんなに際だってすごい日なのに、お祭りや記念行事などというものはとんと聞いたことがない。


 考えてみれば、ちょうど梅雨の最中に当たり、空は雲に覆われたままである。終日薄暗く、梅雨寒の日がつづく。理屈と実態が一番乖離した時期といえよう。とても、“一年で一番○○な日”といって大騒ぎするような状況にはない。おまけに、この時期は田植えなどで一年でも一番忙しいときである。


 二十四節気でも、そんな梅雨空が続くことは折り込み済である。半月先の7月7日の暑さはまだ「小暑」、本格的に暑くなる「大暑」は1ヵ月も先の7月22日と決めつけている。たしかに、七夕の日はまだ肌寒いのが普通である。地球があまりにも大きいので、暖まるのに月単位のタイムラグが必要なようだ。


 そうした日本にあっても、すでに梅雨の明けた沖縄では少し様子が違うようだ。このころ、梅雨前線は本州側にバトンタッチされ、本格的な夏空に覆われる。琉球地方に住む人たちは、このころ吹きだす季節風を「夏至南風」と呼び、夏の本格的な到来を実感することになる。


 一方、冬の昼間が極端に短かく、厳しい寒さが長く続く北欧では、夏の到来は喜びにあふれたものとなる。「夏至祭」などと称し、盛大にお祭りをするところもあるという。夏至は、彼の地の人々にとっては太陽とパワーにあふれた特別な日である。男女の距離がもっとも近づく日ともいわれている。


 振り返って、もう一度日本を見てみよう。静かな内地にあって、伊勢の二見興玉神社の「夏至祭」は特筆される。神社の沖にある夫婦岩では、二つの岩の間から遠く富士山を望むことができる。夏至の日には、その富士山の背後から朝日が昇ってくる。そこに集まった善男善女は、それを拝みながら海で禊ぎをする。


 冬至の日には「柚子湯に入ってかぼちゃを食べる」など、それを特別扱いする風習が残っているが、夏至の日にはそんなものはほとんどみられない。わずかに、大阪あたりにたこの足を食べる風習が残っている程度と聞く。今年あたり、「夏至×新月×父の日+部分日食」を記念してなにか考えてみてはどうだろう。
                      (2020年6月21日 藤原吉弘)