航空券のシニア割引

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[エッセイ 513]
航空券のシニア割引

 彼岸の最中に帰省した。除草剤の散布など、実家跡地の維持管理のためだ。羽田では、予約してあった岩国行きの搭乗券をシニア割引に切り替えてもらうことにした。なにがしか安くなるはずなので、空席がある場合にはいつもそうさせてもらっている。ただ、決済はカードなので、現金のやり取りは一切ない。

 上空に飛び立ち、一息入れたところで先ほどの計算書をチェックしてみた。「キャンセル料が高いといっていたので、たいした得にはなっていないだろう」と思いながら計算書を眺めた。そのとたん、わが目を疑った。どうみても逆ざやになっている。安くなるどころか追加料金を払わされた形になっているのだ。

 当初購入したチケット代は21,890円、キャンセル料と手数料が合計で13,390円、差し引き返金が8,500円となっていた。一方、シニア割引で購入したチケット代金は12,990円だった。これでは、12,990円マイナス8,500円で、4,490円の逆ざやになる。つまり、安く購入しようとしていたのに、さらに4,490円を追加して払ったことになるわけだ。なんと馬鹿なことをしたものだ。

 実は、このような逆ざや現象は初体験である。それでも、現金で8,500円を返してもらい、12,990円を払いなさいといわれればすぐに気がつく。しかし、レシート状の小さな計算書だけではピンとこなかった。気がつかなかった自分が悪いといってしまえばそれまでだが、なんとなく引っかかるものが残った。

 翌日の帰途、岩国空港で搭乗手続きをした。いままでと同じように、安くなるようならシニア割引に切り替えたいと申し出た。係員からは、このチケットはキャンセル料が高いので安くなりませんという返事が返ってきた。仕方なく、当初予約した料金で搭乗手続きを済ませた。「ところで」といって往路の過払いの一件を話し、決裁権限のある人に相談してもらえませんかと善処を頼んだ。

 「羽田に着いたら、どこそこへ立ち寄ってください。そこで結果が分かるようにしておきますから」といわれるのが落ちだろう、と思いながらロビーで返事を待った。およそ10分後、その係員がやってきて、私たちも気がつかなかったのだからと、過払い分を全額現金で返してくれた。なんというありがたい、暖かい心遣いだろう。これで、心に引っかかっていたもやもやは一気に吹き飛んだ。

 この会社は、平素、PRメールをどんどん送りこみ、時によってはタイムサービスまで薦めるスーパーマーケット顔負けの柔らかな商人の表情をしている。ところが、キャンセルの話になると、強面のお代官さまの顔に一変し、懲罰的な決り事を持ち出す。普段、この会社の一ファンとして利用させてもらっているだけに、その“上から目線”の姿勢は残念でならない。

 ただ、第一線で顧客に接する人たちは、みな観音様のような表情をしていることを申し添えておきたい。
(2019年3月25日)